2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

10 至高の業 2

「雄輝。お前の最初の目標は、対戦車ライフルから発射されたアダマンチウム弾をテレキネシスのみで止める事だ」 「いやいや、無理ですよ!」 シャオメイは冗談で言っている様子ではない。真面目に言っている分、まるで別世界の、例えばジャングルに住んでい…

10 至高の業 1

雄輝が案内された場所は建物に囲まれた中庭のような場所だった。 周囲はコンクリートの壁で覆われてゴルフの打ちっぱなし練習場にも見えるが『的』を見てそこが射撃場のである事を知る雄輝。射撃のテストを行うのは人間だけではないようで、数体のドロイドが…

9 就職 7

軍病院に到着後は正面玄関からではなく裏口から建物に入る。 今まで見た事の無い職員用通路を暫く進むとようやく待合室のような場所に通された。 5分かそこら待たされた後、シャオメイが現れる。 「どうした?デートにでも行った帰りの格好だな」 「いえ、こ…

9 就職 6

車で向かった先は浄水場だった。 雄輝が友達と一緒に登ったパイプラインもすぐそこだ。 普段は関係者以外立ち入り禁止の柵が設けてある浄水場の門が開いていて、車はそのまま中へと進む。そして整地された広い場所へと止まる。その下には何かしらの設備があ…

9 就職 5

昼過ぎに雄輝の家に客が訪れた。 黒のワゴンで男性が3名。身長は180はある体躯はしっかりとしたマッチョな男達である。彼らはスーツ姿にサングラスといういかにも怪しげな格好だ。それがシャオメイが遣わせた軍部の人間である事は人目で判った。 「雄輝、お…

9 就職 4

母親が居なくなった部屋でまず雄輝は服を脱いだ。 全裸になってから目の前の女モノ下着と対峙する。 しかもその下着は、高校生と年齢を考慮したとしても若干大人びている漆黒のブラとパンティーの上下だ。 「女が男モノトランクスを履くのは確かに変だ。だけ…

9 就職 3

昼頃、母親は朝に言ったとおりに買い物を終えて戻ってきた。食材とそれから雄輝の女モノの服を持って。 「普段着と、それから…制服も」 制服というキーワードで雄輝の脳裏にシャオメイの顔が浮かぶ。 (そういえば、俺、学校を中退しなきゃいけないんだよな…

9 就職 2

翌日。 雄輝は目が覚めると早速軍のあの中国人の女性に連絡しようとした。 と、その時母親が部屋に入ってきた。 「雄輝、あんた服とかどうするの?買ってきてあげようか?」 「服?いいよ自分で買うから」 「買えるの?」 ふと考えてみる雄輝。 (金はあるけ…

9 就職 1

軍病院を出ると、なるほど君津が言っていたとおり、病院の前はヘリポートと作りかけの道路が途中まであるだけだった。そして他のメンバーは居なくなっていた。先に帰ったのだろう。 (みんな『お誘い』があったのかな) だが雄輝はそれを聞こうとは思わなか…

8 軍病院 9

「話…?」 「今、高校生かな?」 「俺ですか?そうですけど…」 「進路は決まっているのか?」 「進路…ですか?まぁ、学校は進学校だから大学になるのかな…」 「どの大学を受ける?」 「まだ…それは決まってないですけど。っていうか、進路がどうしたんですか…

8 軍病院 8

雄輝は連行されたところまでは覚えていたのだがそれからの記憶は無い。 というよりも、眠っていたようだった。すっきりとした目覚めの後、雄輝は自分が刑事ドラマの中で見たような取調室の椅子に座っている事に気付いた。目の前には小さな質素なテーブルが一…

8 軍病院 7

「目が合ったって、この距離だぞ…」 「いや、マジで。ヤバイ、部下にこっちを調べるように指示してるぞ」 君津は震える手で双眼鏡を持って暫く見ていたが、すぐに手放すとリュックの中にそれをしまってそそくさとその場から移動し始める。 「なになに、どう…

8 軍病院 6

「それで君津はここで何が行われてるか監視してるってわけか」 話は続いているのに、君津はそれを無視して双眼鏡で再び軍病院のヘリポート周辺を観察している。何か動きがあったようで、それにあわせて微妙に双眼鏡の位置が動いている。 「双眼鏡で見なくて…

8 軍病院 5

茂みを越えた先には小高い丘がある。見下ろす先には雄輝達が一度は運ばれてきた病院と思わしき施設があった。 君津は双眼鏡を青葉に手渡して言う。 「例の病気騒ぎがある1ヶ月以上前からあの建物は既にあそこにあったんだ。もう完成間近だったよ」 「偶然だ…

8 軍病院 4

雄輝達が浄水場へと続くパイプラインの管理用通路を登りきるとようやく貯水池が姿を見せる。 木々の間にブラックホールのようにぽっかりと空間が開いて、よく見たら池だったと言うほどに突然に現れている。エメラルドグリーンを更にドス黒くした池。お世辞に…

8 軍病院 3

浄水場へと続くパイプラインの傍には管理用の通路(階段)が設けられており、それは山の上の貯水池に繋がっていた。雑木林で覆われた薄暗い階段には苔がびっしりと生えている。その中腹辺りまで進んでいた。 先頭を雄輝、その後に他のメンバーが続く。 雄輝…

8 軍病院 2

雄輝達の乗った自転車は村の給水池から浄水場へと伸びる太いパイプラインの傍に止めた。どうも給水池の近くから君津の携帯のGPS情報が発信されていたようだ。 「ここあがるのかぁ」 と言ったのは海江田。海江田は彼が男性の時から少しマセたガキであり、背伸…

8 軍病院 1

一人だけ連絡するのを忘れられていた君津。 男の時、存在感が薄かったというわけでもない。たぶん佐藤は連絡するのを忘れていたのではなく、連絡するのを躊躇っていたのだ。それは君津が男の時からウザイ存在であったという事が理由だ。何にでも興味を示して…

7 会合 4

「それで…これからどうする?」 青葉が言う。 「どうって…やっぱりサーカス団でも結成する?」 「やっぱりってなんだよ、そんな話でてねーし」 青葉と佐藤がそんなやり取りをしている。 そんな中、三次がちょっと躊躇いながら言う。 「っていうか…。この事っ…

7 会合 3

佐藤は続けて仕切る。 「昨日電話で少し話したけどさ、なんか、変な力みたいなのが使えるようになってねぇ?って話なんだけど。なぁ、青葉」 青葉と言われた女性が佐藤に返す。 「ああ、遠くのものが見えたり、ものが透けて見えたりする奴?」 「そうそう」 …

7 会合 2

家を出てから程なくして雄輝は佐藤の家に到着した。 玄関を自動ドアよろしく「力」を使って佐藤の家のスライド式ドアを開ける雄輝。そこでまず目に入ったのは男物の靴が乱暴に散らかっている様子。それから一つだけ女性のものと思われる革靴がある。佐藤に母…

7 会合 1

雄輝は佐藤に話そうと思った。 奇妙な自らの力に気付いたその日のうちにだった。 決して自慢をしようとしたのでもなく、一緒にサーカスにでも入らないかと誘うためでもない。雄輝がこの力に気付いたのは身体が女性化してからの話だ。つまり、佐藤も雄輝と同…

6 感覚 5

雄輝は朝食を食べ終わると、壁に突き刺さった爪楊枝を見えないようにティッシュの箱などで隠した。それから2階の自分の部屋に上がり、ベッドに寝転んで天井を見つめた。 別に壁に刺さった爪楊枝をどうやって取り出そうかと考えているわけではない。投げた爪…

6 感覚 4

せっかく霧がいい感じに出ている朝だから山頂まで上がって雲海に沈む川上村を眺めてみようと思っていた雄輝だったが、周囲の奇妙な現象に気味が悪くなり途中で引き返すこととした。 普段なら朝食は殆ど採らない。眠気よりも空腹が勝っているからだ。だがその…

6 感覚 3

奇妙な胸騒ぎがし始めていた。 決して山を駆け上がっていたからではない。目を瞑っても歩ける事とは、つまり、視覚以外の感覚で道がどこにあるのかを理解しているのだ。しかも本人が意識するまもなく。 もう冗談半分に目を瞑って歩こうなどとは思わなかった…

6 感覚 2

霧が水蒸気で出来ているのがよく理解できるというほどに、雄輝の着ているパジャマが水分を帯びてきているのが判った。 だからと言って梅雨や夏の間に夕立だとか、日本独特の湿気を帯びた空気というわけでもない。まだ季節は冬であり、加えて標高が少し高い川…

6 感覚 1

川上村は盆地になっている為か、ちょっと気温が低い朝がくるとたちまち霧の中に包まれる事がある。雄輝は昔からその霧の中、彼の近所の山の上まで登って村を眺め下ろすのが好きだった。 ただそれが出来るのはその日学校が休みで、ちゃんと朝目が覚めたときだ…

15 幸せのかたち 6

豊吉はそれ以上昔の事を思い出す行為はしなかった。それ以上しても苦しくなるだけだと思ったのだ。 そして、彼は随分と昔に会社勤めをしていた時と、家族と過ごしたわずかな記憶だけを思い出すだけで他は何一つ思い出さなかった。 ただ、目の前にいる風雅に…

15 幸せのかたち 5

居酒屋は平日という事もあって空いていた。 カウンター席に2人陣取って酒や料理を注文する。そして仕事の話などを暫く続けた後、後輩は手帳を取り出して中に挟んである写真を取り出してまじまじと見つめた。 「家族の写真か?」 「ええ」 「確か、君んとこは…

15 幸せのかたち 4

深夜11時頃、まだ残業していた豊川は、その彼の為に最後までついていたフロアの照明を落として会社を後にする。 出て暫くしたところでタクシーを待つ彼の後輩の一人と出会った。 「あら、豊川さん、まだ残っていらしたんですか」 後輩は豊川に気付いて話し掛…