6 感覚 5

雄輝は朝食を食べ終わると、壁に突き刺さった爪楊枝を見えないようにティッシュの箱などで隠した。それから2階の自分の部屋に上がり、ベッドに寝転んで天井を見つめた。
別に壁に刺さった爪楊枝をどうやって取り出そうかと考えているわけではない。投げた爪楊枝に偶然にも凄まじい力が加わり、偶然にもたまたま飛んでいたハエを串刺しにして、偶然にも壁と衝突した際にも折れたり曲がったりすることもなく、壁に突き刺さった爪楊枝にどういう理由をつければ納得がいくか考えていたのだ。ハエは別として他の部分は偶然では片付けられなかった。
「もしかして?魔法とか…いやまさか」
魔法というキーワードが出たのは、少年が突然魔法が使えるようになって後は魔法使いの国に行って悪い奴を倒すという王道ストーリーになるのだが、そういうアメリカ産映画を見た影響がある。
ベッドに寝転びながらぐるりと回転して部屋を見渡すと、本棚に漫画がいくつか並んでいるのが目に入る。あれを取りに行って引き続きここで寝転がりながら漫画を読んでいようかと考える雄輝。そしてもう一つ、彼はバカみたいな事であるが、テレキネシスのような力でその漫画本を自分の元へと手繰り寄せる事が出来ないかと考えた。
「漫画よ、俺のもとへ来い」
その手は漫画本が置いてある本棚へ。そして頭で本がこちらに飛んでくる想像をしてみた。
ありえない事だが、その本は宙を浮いて雄輝の手にすぽっと収まった。雄輝がテレビでみたような魔法で飛んでくる本と違って、ちゃんと手で構えてなければ顔に直撃したであろう速さで飛んできた。
「はぁ…?」
起き上がると全身に汗をかき始めた。
「なに?これ…」
雄輝は今度は本を宙に浮かばせる状態を想像してみた。本は宙に浮かぶ。今度はページがぱらぱらと捲れるのを想像してみる。まるで生きているかのようにペラペラとページがめくれて、雄輝の女性としてはまだ短い髪を風でなびかせる。
「マジで?」
雄輝は少し笑った。その後、顔は引きつった。