7 会合 1

雄輝は佐藤に話そうと思った。
奇妙な自らの力に気付いたその日のうちにだった。
決して自慢をしようとしたのでもなく、一緒にサーカスにでも入らないかと誘うためでもない。雄輝がこの力に気付いたのは身体が女性化してからの話だ。つまり、佐藤も雄輝と同じような何かしらの変化を感じ取ったのではないかと推測していたのだ。
電話で連絡してみると、まるでそれを待っていたかのような雰囲気だ。
「みんなで会おうって話になったんだよ」
なぜこのタイミングで?という疑問が沸き起こる。
しかし考えていてもしょうがないとも思った雄輝はさっそく着替えて出かける準備をする。と、いっても彼に用意された服はまだ男物のものばかり。しかもサイズが合わない。
「出かけようと思っても出かける服がなし…かぁ」
全ての服がぶかぶか。Tシャツを着てから上からワイシャツを着て、ズボンを履いた。そして袖を折ってサイズをあわせる。もちろんウエストをベルトで思いっきり絞る。不恰好ではあるが、外を歩けないわけでもない。
「よし、準備完了」
後は財布と自転車の鍵を取るだけ。見れば机の上にそれらが置いてある。僅か3メートル先にあるのだが、先ほど使った特殊な力があるのなら足を動かす必要もないだろうと、さっそく力を使って自転車の鍵を手繰り寄せる。まるでキャッチボールでもするかのように宙を飛んだカギが雄輝の手の中に納まる。
(だんだん重い物が動かせるようになってきたぞ…)
次は財布だ。再びキャッチボールをするのはつまらないので今度は財布を力で手繰り寄せた後にズボンの後ろポケットに入れる事を試験してみる雄輝。財布をまずは力を使って自分の手前まで手繰り寄せる。と、その時、キャッチボールをする時の勢いで手繰り寄せたため、中に入っていたカード類がパラパラと床に落ちた。
「意外と…難しいな」
そのまま財布を宙に固定したまま、落ちたカードを財布に入れようとする。するとカードは宙に浮かせたが、今度は財布が落ちてしまう。
「一度に動かせるものは一つ?いや、そんなはずはないよね」
そう言ったのは、雄輝が先ほど山の中で水蒸気を動かせる事が出来たからだ。それらは一つではなく、いくつもの分子が集まったものだ。動かせるものは常に一つ、というルールはない。
神経を集中し、財布を宙に固定したまま、そちらに意識を片方だけ使いながらもう片方はカードを動かすイメージをする。その通りに、カードが宙に動き一枚一枚、財布の中に納まっていく。
「今の所、一度に動かせるものは2個が限界か」
額に少し汗を掻いたのを手で拭って部屋を出た。