15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 1

米兵4人分の肉塊の前に俺とタチコマは居た。
たままた逃げていた米兵と出会ったわけじゃなかったわけだ。
彼らはこの場所を『死守せよ』とでも言われていたのかもしれない。それか出口がここだと信じて逃げようとしていたのかもしれない…そう彼らに信じこませた何者かによる時間稼ぎだったのかもしれない。
通りすぎようとしていたが足を止めて、最初に何かしらの気づきをあげたのはタチコマだった。
「この扉を開けようとした形跡があります」
1人の米兵が扉の前のパスコード入力パネルの前で肉塊になっていたからだ。ただ、素人の俺から見ても、この場所が地上へと続く脱出経路とは思えないのだ。
しかし調べなければならない。
俺達は地上へ逃げる出口も探さなければならないが、同時に本来の目的でもある人質の救出も行わなければならないからだ。
しかし、全ての『時』は前方向に向かってのみ動く。先に何が起きるのかはどんな立場の人間であっても知りえないのだ。俺とタチコマは、早々にこの場所を離れなければならないことに気付くのは、もう暫く時が前方向に動いてからだった。
つまりはこれが天下の名祭『あとの祭り』というわけだ。
さっそくタチコマが、その扉の前で腕から伸びた通信ケーブルを、パスコード入力パネルの下にある電子インターフェイスに突き刺す。それはこの場所に人質…ケイスケの妹がいるかも知れないことを示唆していた。
「そんなことしなくても、あたしg」
と言いかけたところ…俺の首元にボンレスハムのように図太い腕が、突き刺さるように喉元に喰らいついていた。
俺が武道家のソレであるのなら気配を察知してその動きを先読みして、優秀な武道家な反撃を、すこし優秀な武道家なら身体を反らし、スローモーションのように迫り来る腕を回避していたところだろう。
だが俺は素人で武道家ですらない。
喉元に喰らいついたボンレスハムは「あ、これボンレスハムに似てる」って思うぐらいに視界に入って喉にダメージを与えて初めて攻撃を受けたと気付くのだ。
「かはッ!」
レイプされる美少女が喉を締めあげられた時みたいな声を上げる俺。
目の前にはスキンヘッドの身長は2メートルはあるメリケン野郎がボンレスハムのような腕を伸ばして俺の首を片手で掴んで空高くあげていた。幸いにも天井は高かったからメリケン野郎は俺の頭を天井にめり込ませるという、あたかも『スティーブン・セガール』のような攻撃はしなかった。しかし、昔、岩国米軍基地で友達がふざけてフェンス越しに中指を立てた時に、ブチ切れて興奮した米兵がフェンスを乗り越えて襲いかかってきたという思い出を走馬灯の代わりに見るぐらいには危機だった。
そのメリケン野郎は俺に言う。
英語だ。
俺の英語の成績はD。クラスでは最下位の部類だ。
まるで喧嘩を売る時のような話し方だ。
『ビッチ』という言葉もなんとなく聞こえた。
喉を完全に塞がれた俺は何も言えない、が…
助けは呼べないわけじゃない。
タチコマァ!!!』
電脳通信で呼ぶ。
タチコマは身体を電磁ロックの解除作業をする為に扉に向けた身体をそのまま動かさずに俺の視覚野から送られた映像だけで位置を特定し、腕だけをこちらに伸ばした。そして、罵倒セリフと思われる英語を話しているメリケン野郎にガトリング砲を放った。
俺の目の前で肉塊になる…と思ったが…確かに肉は飛び散ってはいたが、奴のバリアと肉だけを削ぎ落としただけだ。そして本来の戦車のガトリング砲だったら奴を殺れたのに…と俺に思わせた。
とどのつまるところ、こいつ…サイボーグだ。
肉は剥がれ、身体の半分だけが不気味に白とシルバーで構成された外骨格にメーカーの名前が刻んである。Panaso…nic…。
おいい…。
日本の義体メーカーかよ。
その日本製義体…日本製サイボーグ野郎は、その状態で、タチコマに口も喉も吹き飛ばされた状態で英語で何か言う。顎は喉がなくても声が発せられるのはサイボーグだからだ。だが、せっかくのサイボーグも英語の成績が最悪な高校生である俺を前には無意味だった。
だが、1つだけわかったことがある。
『ジャップ』という言葉…2chに時折見かける、「ジャーーーーーwww」の元ネタにもなった言葉。侮蔑の言葉。俺が奴をメリケンと罵ることと同意義の言葉である。
俺は細い美少女の首を相変わらず掴んで締め上げてるボンレスハムを片手で持ち、全神経を足に集中させた。
周囲に重力波が広がった。物体が一瞬だけ宙に浮かぶ。
次の瞬間。
俺の鋭い蹴りがボンレスハムを直撃した。
物理法則を裏切る美少女の蹴りだ。グラビティ・コントロールによる力を加えたボーナスアップだ。美味しいだろう?
奴の腕は根本から裂けて、その動力を失った腕を床に転がすハメになった。と、同時に重力波は収まって少しだけ宙に浮いていてた周囲の色々なものは落ちた。
ただでは終わらない、お釣りが来るぐらいにダメージを与えてやる。お釣りが小銭ばっかりで困るぐらいに。俺は素早く武器リストからブレードを選択し奴を左肩から金玉まで斜めに斬りつけた。
そして喉が解放された俺は、さっそくだが叫んだ。
「な、なにぃいいぃいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
あまりに一瞬で理解するまでに少しラグがあった。
奴の身体の背後に、タチコマとは違ってはいるものの、同じような蜘蛛型…いや、多脚タイプのケンタウロス・ボディと言われるドロイドが近づいてきて、奴の頭の中にある何かを引っ張りだしたのだ。周囲にはサイボーグ用の血やら体液みたいなのが飛び散ってキモい。
人間と見間違えるぐらいのサイボーグからドロイドが脳みそを引っ張りだすみたいでエグいのだが…。
俺が叫んだ理由はそれではない。
その引っ張りだした部分をドロイドの胴体の中に押し込んだのだ。
ドロイドが人間の脳を取り込んだんじゃない、このドロイドが…。
その野郎が、俺を指差して先ほどと同じ声と調子で言う。
英語で。
罵倒文句らしきものを。
つまり…。
このドロイドが…次の…奴の『身体』だとうぅっ?!
奴は腕を突き出した。
一瞬、奴の腕が青に輝く…これは、
俺は素早くグラビティコントロールで周囲にあった手頃な何かを引っ張りだした。コンテナだ。防御に間に合わせるためだ。しかし完全には間に合わず、コンテナの半分が吹き飛んだ。貫通した衝撃がが俺の身体を、小さな美少女の身体を吹き飛ばした。
幸いにもバリアが展開されていたから身体の一部だけが吹き飛ぶという最悪な事態は免れたが、俺はショックカノンを食らうという貴重な経験をさせて頂いた。感謝しなければならない。
そして感謝の反撃だ。
防御に使って吹き飛ばされて半分砕けたコンテナをグラビティコントロールでどけると、丸裸になった奴のケンタウロス・ボディが射程圏内に収まる。そして武器リストからショックカノンを素早く取り出して放つ。
一撃は命中。
奴はバリア展開。
今度は奴の反撃。
放たれる。
俺は腕の動きを読んで身体を回避。
俺は反撃。
放つ。
奴のバリアが薄くなる。
放たれる。
俺は腕の動きを読んで身体を回避。
放つ。
奴も回避。
タチコマ!!!まだァ?!』
…。
『おいいいいいいいいいい!!!!』
聞いてねぇのかよ!!
『…』
俺の視界に真っ赤なメッセージダイアログが表示された。
あまりに邪魔でどけたいぐらいだ。今、敵と交戦中なんだが…。
…。
『Virusをブロックしました』の赤いメッセージ。
おいおいおいおいおいおいおい!!
タチコマからの通信でウイルス送られて来てんだけど!!
何してんコイツ!!!!
「キュゥゥゥ…」
パニックになりかかっていたがさらに別のパニックが襲いかかった。
ショックカノンが…変な音を出してとまった。
これって弾が無限にあるからいくらでも撃てるんじゃなかったのかよ?
連続使用できないのか?!
相手も同じか。
俺は背後に手を回してブレードを素早く出す。
そのままの体勢でバリアが削ぎ落とされる覚悟で奴に接近。だが、奴も奴でショックカノン以外の飛び道具を持っていないのか、それとも肉弾戦を好んでするのか、とにかく俺との間合いを詰めてきた。
「ちぇぇッす、」
とォォォ!!とやろうとしたところで、
ケンタウロス・ボディの長い腕が俺の腕を止めた。クソッ。
腕で正解だったな、グラビティ・ブレードをそのまま受け止めたら完全に真っ二つにされてただろう。
そのまま長い腕のもう一本が俺の首にあてがわれる。
タチコマ!!!まだ部屋の電磁ロックは?!』
『そんなに急げ急げ言われてもできるわけないじゃんかよォォ!!!僕だってこれでも急いでやってるんだよ!!早く終わらせたきゃ君がってよォォォォォ!!!』
…え?
なんか…キャラ変わってない?