2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

11 スポット・インスペクション 1

「まずは腹ごしらえだ。腹が減っては戦はできぬってな」 東屋は国道沿いのファーストフード・ドライブスルーを指差して言う。 「いいんですか?ジャンクフードでも?」 「ああ、うん。ジャンクフードがダメなら別の店でもいいよ」 「いえいえ、私は別に嫌い…

10 予測と憶測 5

キャンプに集まった一同を前に風雅が言う。 「とりあえず、ゼノグラシアを降りよう。レッカ女王との約束もあるし」 はつみが言う。 「現実の世界の人との話、どうだったの?」 彼女は既に現実の世界について思い出していた。だから風雅が誰も居ないところで…

10 予測と憶測 4

『如月、LOSの仮想空間で誰かと会ったか?誰かっていうのはAIじゃなくて人間の事だ』 『ええ、会いましたよ。今も一緒に行動しています』 『その中に現実の世界の事を思い出してる奴はいるか?』 『現実の世界…』 風雅の脳裏にはつみの事やロイドの事が浮か…

10 予測と憶測 3

千葉教授は真っ白な頭髪に指を突っ込んでぐしゃぐしゃとかき混ぜた。彼が悩んでいる時や困っている時にその仕草をする。 「なんたらシフトというのは、パラダイムシフトの事ではないかね」 その単語が思い浮かばなかった青井は恥ずかしそうに頭を掻いて笑い…

10 予測と憶測 2

風雅は潜入開始してから今までに起きた事を思い出しながら、それを開発者としての見解を織り交ぜながら、青井に説明していった。 『青井さん。イベントシステムを覚えていますか?』 『ああ。プレーヤーに何らかの形でイベントが発生してNPCや他のプレーヤー…

10 予測と憶測 1

ゼノグラシアの神殿から出た広場に風雅がいた。 隣には豊吉がいる。 風雅の手に入れた財宝は外部、つまり現実の世界との通信を行うプログラムだった。それらは財宝とは名ばかりで目に見えるものではない。手に入れた風雅だけが使用することができるものだ。 …

9 オールド・ソルジャー 6

「うむ。あいわかった」 東屋は少し考えた後、そう言った。 「わしが教えるのはコンピュータ云々の捜査じゃないが、それでもいいかの?」 「はい!」 「わしが君のお父さんに教えた事も、君の父さんに教えられなかった事も、全部伝授しよう。大丈夫。日下の…

9 オールド・ソルジャー 5

「東屋さん?」 突然名前を呼ばれて、その記憶の海から這い上がった東屋は、ぽかんと口を開けて東屋のそんな様子を見ていた小山内と目があった。 「あ、ああ」 「どうしたんですか?凄く曇った表情でしたけど」 「ああ、いや。昔の事を思い出していてね。ど…

9 オールド・ソルジャー 4

東屋はほんの少しだけ、昔の事を思い出していた。 研究熱心だった東屋は普段から趣味と仕事の区別はつかず仕事に没頭していた。そしていつしか「鬼の東屋」と呼ばれた。この鬼には二つの意味があって、一つは仕事の鬼という意味。そしてもう一つは、犯人を追…

9 オールド・ソルジャー 3

東屋はそれからしばらくのあいだ、20分だか30分だか、魚切署の職員が持ってきたお茶をすすっていたが、流石に暇になったのか椅子から離れて小山内の操作している機器を見学した。 「ほう、この機械で犯人を見つけるのかい」 「量子演算ユニットです。犯人を…

9 オールド・ソルジャー 2

「あのすいません、一般の方はそちらへは…」 魚切署の職員の女性は、そのぼろぼろのタイルが貼ってある廊下を進もうとした初老の男性を呼び止めてそう言った。その男性は年齢は60〜70歳代、髪は白髪で口髭をこしらえてて、もう定年退職後の老後をのんびりと…

9 オールド・ソルジャー 1

魚切警察署、ロビー。 築50年のその建物は所々にヒビやシミが現れて大きな地震がくればいっそのこと全部綺麗に壊れてしまえばいいのにと、署員だけでなく、理由があって訪れる市民も思っているところだった。だが建て替えるだけの税金は出ない。その必要は無…

8 トモダチ 7

夏美こと、はつみはゼノグラシアから彼方を見下ろせる場所に立っていた。 となりにはテトがいる。 「テト…私ね、思い出したんだ。全部」 「?」 「ずっと前から私がテトと会っていたこと。初めてゲームにログインした時からずっと。それから二人で森に食べ物…

8 トモダチ 6

どこに行くにも夏美にとって、テトの人形は必須だった。 仮想空間でもそうであるように、ずっと一緒にいなければならない存在になっていた。人形が無くなった時には血眼になって探していた。 その日もいつもの様にログインしてからテトの元へと向かった。 い…

8 トモダチ 5

また気分が悪くなる夏美。 ちょうどゲームショップの前で数人の中学生達が学校帰りだった。 ゲームの話題に夢中になって、笑顔で話し合っている。それを見て夏美がどんどん気分が悪くなっていった。そしてとてつもなく不安な気持ちになった。 これだけ沢山の…

8 トモダチ 4

「夏美、たまには外に出ないと」 母親からそう言われて、しぶしぶ外に出る夏美。 夏美は自殺騒動からずっと登校拒否を続けていた。それは自分の活動できる場所が閉ざされてしまっている事を意味していた。唯一、思うとおりに動けるのが仮想空間の中だけだっ…

8 トモダチ 3

いつしか夏美が寝床にしている木にその奇妙な動物が食べ物を持ってくるようになっていた。 「ありがとう」 夏美は頭を下げてお礼する。 「えっと…なんて呼べばいいのかな」 言葉は通じるはずはなかった。 「そうだ。トテトテ歩くからトテって呼んでもいい?…

8 トモダチ 2

それから何度も仮想空間にログオンした。 時間の感覚はゲーム内も現実の世界も同じだったが、ゲーム内の1日は現実の世界の3時間程度だという事がログアウトして初めてわかった。 夏美は現実の世界の1日に何度もゲームにログインした。ログインしたとしても何…

8 トモダチ 1

ゲームの仮想空間は広大だった。 世界の果ては少なくとも夏美の目からは確認できない。あまりにも広大過ぎて、どこかへ行こうという考えは思い浮かばない。ただ目の前のとても素晴らしい景色を楽しんでいく日々を過ごしたいと思っていた。だから夏美は、しば…