9 オールド・ソルジャー 1

魚切警察署、ロビー。
築50年のその建物は所々にヒビやシミが現れて大きな地震がくればいっそのこと全部綺麗に壊れてしまえばいいのにと、署員だけでなく、理由があって訪れる市民も思っているところだった。だが建て替えるだけの税金は出ない。その必要は無いからだ。
かといって警察が不要というわけでもない。
交通事故や交通整理、スピード違反の取締り。この小さな街で警察が出来る事と言えばそれぐらいだった。それぐらいの事をしなければいけないが、それ以上の事でする事がない。それがこの建物がいつまでも建て替えられる事もなく、かといって壊される事もない理由だ。
だが、今は極秘裏にこの警察署にサイバーポリスの出張所があった。
このボロボロの建物と田舎独特ののんびりとした雰囲気が、マスコミの目から逃れるためのカモフラージュになっていたのだ。
タイルが所々剥がれている廊下の突き当たり、「資料室」と書かれた場所の隣の部屋が出張所となっていた。今までそこは警察署の女性職員がお昼休みにお弁当を食べる部屋として使われていた。それぐらいしか使用用途のない部屋だった。
今はその部屋に沢山の機器が置かれて、サイバーポリスの関係者が数名出入りしている。出るほうは、そのままエレクトロニック・アーツ・インダストリー社へと向かう。入るのはそこから手に入れた情報を使って捜査をする。
と言っても、実質は形だけの場所ではあった。
サイバーポリスの職員の一人、豊川は既にロード・オブ・シャングリラの仮想空間の中で『捜査』をしているからだ。現時点ではハッキング犯罪などを調査できる前の段階だから、その外的な捜査ができない以上、その場所はあまり使用用途はなかった。