第2部

25 サイト・ログ 6

「見つけましたよ」 数時間が経過してようやく、小山内はバックアップデータの中から陸風会に関するものを抽出したようだった。 「どうれ、みようかね」 重い腰を上げて東屋がディスプレイを見る。 「結局見つかったのはここだけですね。陸風会のメンバーの…

25 サイト・ログ 5

助手席にはいつものように東屋が座り、運転席は開いている。エンジンは掛けっぱなし。停車中だった。 急いで駆けこんでくる小山内は何やら様々な電子機器を持っていてそれを無造作に助手席後ろの後部座席へと放り込む。その様子を「そんな乱暴に扱っていいの…

25 サイト・ログ 4

メールや電話でのやり取りを重ねた後、小山内の端末は検索サイトのバックアップデバイスへのアクセスが出来る状態となった。警察特権である。 眠たい目を擦りながら小山内は先ほどから繰り返してきた同じ事を、バックアップデバイスへ接続された端末から行う…

25 サイト・ログ 3

東屋の乗るタクシーが到着したのは一つの小さな街の警察署だった。 見窄らしい駐車場はアスファルトの劣化が激しく、以前はその駐車場に多くの車が行き来していた事を物語っている。今はといえば、警察のパトカーが数台ほど止まるのみ。合併でその警察署は警…

25 サイト・ログ 2

「はぁ…」 深夜の1時を過ぎた頃、小山内はそろそろ帰ろうと腰を上げた。そこで初めて残っているのは自分だけという状況を知る。それが一気に疲れを呼ぶという一つのアクションでもある。 いくつかの掲示板に「陸風会を潰そうとした人がいるのではないか?」…

25 サイト・ログ 1

「いいよなぁ、お前はずっとネットして遊んでて、それが仕事なんだもんなぁ」とコーヒーの香りと共に通り過ぎる影がある。通り過ぎざまに挨拶がわりに皮肉を言うのは小山内の同僚である。それが毎日の日課になっていたし、小山内も皮肉を言われる事が日課の…

24 しがらみ 6

風雅が望んでいたことは自分が創り出したゲームで誰もが幸せになる事だった。そしてそれは、少なくともひとりの少女を幸せにする事が出来た。だが本当に幸せなのかという疑問が残っているのだ。 風雅の与えた幸せはただの現実からの逃避ではないか、という疑…

24 しがらみ 5

記事の投稿者は「17歳、学生」 私の姉は1年前、結婚して今は家に住んでいます。 私の居場所は姉夫婦が家に住むようになってからなくなりました。 私は学校の友達とも会う事を禁止され、バイトをするように命じられました。そうしなければひどい目に合わせら…

24 しがらみ 4

数年前のある日、EAI社の社員食堂に風雅こと、如月恭二が居た。 食堂は経費節約の為に半分の電気が消されており、しかも時間は深夜だった。ぽつりと広いテーブルに一人、如月は100円のカップそばを購入してからそれを食していた。広いフロアにはソバをすする…

24 しがらみ 3

気候がシハーよりも過ごしやすいせいか、夜のティリスの街は涼しい風が王宮のベランダにも流れこんでくる。そのベランダには先ほど『外の世界』と通信を終えた風雅と、その通信が終わるまで側で待っていたマハの二人がいた。 「話は終わったの?」 「あぁ」 …

24 しがらみ 2

『一つ、教えてください。分かる範囲でいいので』 風雅の通信相手は千葉教授だった。 『分かる範囲ならなんでも』 『現実の世界で手足が動かせない人間がLOSに接続した場合は、そのアバターも同様に手足が動かせなくなるんですか?』 『先天的なものと後天的…

24 しがらみ 1

ジッタの操縦する飛空艇は無事にティリスの側にある湖に着水した。既に元老院からの使いが船を寄せて風雅達を歓迎している。 「ジニアス様からお話は伺っております」 ローブを着たその一団は風雅達に船に移るようにと指示する。風雅達が飛空艇から降りる中…

23 愛は地球を救う 6

その日、初めて尊はネットワークゲーム「ロード・オブ・シャングリラ」の仮想空間に降り立った。 最初はたかがゲームとバカにしていた尊だった。 だが、そこに広がっているのはゲームとは思えない、忠実に再現され現実と区別がつかない仮想空間。風が頬をな…

23 愛は地球を救う 5

「ゲーム治療ですか…?」 病院に呼び出された尊の両親が医者から聞いた話は今までの治療法とは全く異なるものだった。 「尊君は隙さえあらば自殺しようとします。そこに猿轡をハメてなんとかそうさえないようにしているのですが、さすがにそれは本人には苦痛…

23 愛は地球を救う 4

数日が経過したある日、尊の病室の前で声が聞こえる。それは彼の両親でも友達でも会社の同僚でもない声だった。 「面会謝絶なんです。ここを通すわけには行きません」 「そこをなんとかお願いしますよ。話だけでも」 「今会えない状態という事なのですが」 …

23 愛は地球を救う 3

「尊…」 病室に入る両親。 息子に会いに行くのはどこの家庭でも普通はなんら苦痛はないものだが、尊の両親にしてみればもう苦痛になっていた。 毎回「死にたい」と聞かされるのだ。自分の息子が「死にたい」と言うことがどれほど親にとっては苦痛だろうか。…

23 愛は地球を救う 2

暗い気持ちで診察室を出る尊の両親。 そこには他の患者やその付添が待っていた、かのように見えた。待合室の長椅子に座っていた男2名が立ち上がると、尊の両親の側に近づき、すっ、と名刺を差し出したのだ。 「ジャパンテレビの柏木です」 訝しげにその名刺…

23 愛は地球を救う 1

尊の両親が病院の待合室にいる。 外ではセミが鳴き、街路には薄着の男女がパタパタと手に持っていたパンフレットで顔を仰ぎながら歩いている。季節は夏だった。だが病院の窓の外と中で気温差があった。一つはクーラーによる差、もう一つは夏を楽しんでいるこ…

22 自由から不自由へ 5

ロイドは船の中にいた。 ジッタの飛空艇の中だ。 一行はキエフまで来て飛空艇のメンテナンスをしたあと、女王と側近、それから風雅達とジニアスを乗せてアルタザールの首都ティリスの側の湖に着水する事となっていた。空中を経由しての移動の提案はジニアス…

22 自由から不自由へ 4

「息子は助かるんでしょうか?」 「助かる…というのは?」 「手足が…その、義足か義手かなにか」 「サイボーグの技術はまだ発展途上なのです。しかも日本ではまだ認可がおりない。普通の生活を送ることはまだ不可能でしょう。ただ、いつまでも当院に措置を施…

22 自由から不自由へ 3

尊はその日、事故にあった。 人生で最初で最後の事故となったのだろうか。 彼の乗ったバイクは転倒し、炎上した。 彼を巻き込んで。 意識は飛んだ。燃え盛る炎の中で。 そして…真っ暗闇の中から声がした。 「最も命を脅かす火傷による損傷ですが、なんとか処…

22 自由から不自由へ 2

(桐ケ崎尊(きりがさき、みこと)これが俺の名前だ。そう…夢の中の俺の名前…) ごく普通の家に生まれて、ごく普通に成長して、ごく普通の会社に努めていた 年齢は25歳。 仕事もそろそろうまく回り始めて、学生と社会人と二つの人間関係が築き上がる頃、休み…

22 自由から不自由へ 1

砂漠の夜は昼間とは真逆だ。まるで振り子の右と左のように、昼の温度が高ければ高いほどに夜は寒くなる。それはほんの僅かな間に部屋の扉を開けただけでも、扉が開けられたことが分かる程にだ。 肌寒さを感じて起き上がるマハ。 もうここ最近は毎晩のように…

21 2国間対談 2

風雅達は女王の後を追って歩いた。 「ジニアス、お前の目的はこれだったのか?」 ロイドがさりげなくジニアスの近くによるとそう耳元で言う。 「ええ、そうなんですよ…私は軍務のほうが向いているのに、いい経験をするだろうからと外交官の役を『やらされて…

21 2国間対談 1

風雅達とレッカ女王はバベルの塔から出た。 彼らを待っていたのは風雅達にとってはよく知った顔であった。ジニアスだ。幾人もの部下を従えて、加えて女王の従者達もいる。 「女王…」 従者の一人がレッカの側に近寄り、耳打ちする。その後、女王はそのまま表…

20 ストーリー 2

「私が思うに、」 レッカ女王がスケッチブックのページを一つ一つゆっくりと開きながら言う。 「バベルはこのスケッチブックを完成させたかったのではないかな。それはバベルの手ではなく、この絵に込められた思いを誰かによって達成させるという事での完成…

20 ストーリー 1

風雅達がテレポートした先には見覚えのあるフロアが広がっていた。 「ここは…バベルの塔の中層?」 という風雅の声を聞いて振り返る影。暗闇から姿を表したのは、そこで調査隊の船頭を切って作業していたレッカ女王の姿だった。 「どうやってここへ…?」 「…

19 ベリィド・ドキュメント 7

「なるほど!そうだったのか…」 東屋は何かを閃いたかのように言う。 「どした?」 「いやね、ゼノグラシアの軍隊って突然、相手国の首都のすぐ側に出現したりするんだよ。今までどうやってそれをやってんのかが謎だった。出現させたい位置に大陸の一部を落…

19 ベリィド・ドキュメント 6

画面にはメンテナンス履歴と題されたリストが表示されている。 それを一通り読み終えてから青井が言う。 「なるほどな。これやバグじゃないな」 「え?…えっと、つまり…」 「ゼノグラシアと呼ばれる空中大陸が出来てから、そこへの物資の供給をする為にユー…

19 ベリィド・ドキュメント 5

「ふむ。見つけたかもしんねーぞ」 静かな部屋で突然青井の声が響く。 「え?マジで?」 東屋が駆け寄る。 端末のディスプレイに表示されているのは一枚のトラブル報告書だった。 「『審判の光によるワールド・サーバ高負荷現象』…さすがはネットゲームのト…