19 ベリィド・ドキュメント 6

画面にはメンテナンス履歴と題されたリストが表示されている。
それを一通り読み終えてから青井が言う。
「なるほどな。これやバグじゃないな」
「え?…えっと、つまり…」
ゼノグラシアと呼ばれる空中大陸が出来てから、そこへの物資の供給をする為にユーザによって作られた街…それがバベル。ただ、そのバベルがあった場所は元々ゼノグラシアがあった場所であって、そのバベルにもユーザがいるわけで…。つまり、世界を再構築するとなるとゼノグラシアは元の位置に戻る事になる。じゃあ元の場所…つまりバベルにいるユーザのユーザデータはどうするのか?この問題に短期間で対応できなかったから放置となってる」
「あぁ〜…」
ルルティアって奴はこうなることを予測してたみたいだな」
「でもさ、ゼノグラシアが、例えばどっかの海の上に設置されたとしたら万事解決じゃないの?」
「お前な、それだけ大量のデータの置換をあっさり出来ないだろう?そりゃ世界を全く一から作り直すレベルだぞ。大規模なデータコンバージョンはサービス中にしないっていうのが社の方針だ」
「まぁ、俺、システム屋じゃねーからそういうのわかんねーし」
「これで謎が溶けたな」
「え…?。忘却の神殿ってゼノグラシアとは全然違う場所にあるんだよ?これってどういう…」
青井は自らの額に指をつんつんと当てて、「頭を働かせろよ」と言い、続ける。「つまりな、これで既にデータとしての『不整合』の下地が出来たってことだ。ゼノグラシアの大陸から切り取ったデータはあくまででゼノグラシアなんだよ。その仕組を利用して例えば古い地形には定義されていないモンスターの出入を禁止する土地を作ることが出来る。簡単さ。ゼノグラシアの一部の地形を切り落として地面に落下させればいい」
「あぁ…なるほど」
「ひょっとするとこの切り落とされたゼノグラシアの一部の土地はまだ繋がっているかもしれないな」
「…簡易テレポーター?」
「そういう事だ」