19 ベリィド・ドキュメント 5

「ふむ。見つけたかもしんねーぞ」
静かな部屋で突然青井の声が響く。
「え?マジで?」
東屋が駆け寄る。
端末のディスプレイに表示されているのは一枚のトラブル報告書だった。
「『審判の光によるワールド・サーバ高負荷現象』…さすがはネットゲームのトラブル報告書だね、ゲームの中に使われてる言葉がそのまま載ってる」
「審判の光ってのは?」
ルルティアが創りだした兵器だよ。ゼノグラシアから特定の地域に大爆発起こせるっていうか。それがまるでどこぞのゲームにある神の裁きの光みたいだから同じ様に名前をつけたんだと思う」
「ほぉ…」
「『5:34。エスパダを中心に大規模な地形データ書き換えによる高負荷状態を計測。ワールドサーバが1分32秒間停止。原因は…1.錬金術メソッドの同時連続実行によるメソッドキューオーバー。2.ユーザデータと地形データのデータベース間のリレーションシップ担保』…専門用語ばっかり」
「なるほどな」
「つまり、どういう事?」
「この下の備考のところに書いてある。『物質置換の錬金術マクロの痕跡を検知、発火点を中心に連鎖的にエクスプローディング処理』、つまり、この審判の光っていうのは錬金術マクロの大規模な同時実行で着弾点の地質を爆発物に変え、後は火をつけて爆発させるっていうもんなんだろ。その規模が大きいからサーバの処理が間に合わずにフリーズした」
「この2.の奴は?」
「昔のバージョンでは確か地形データとユーザデータが繋がってて整合性を担保する為に同期処理…つまりリレーション担保処理な。これが動いてた。これも高負荷になる要因だって事だ。さすがに運用側もこれは目を瞑れなかったらしいな。優先度1になっとる」
「そんじゃ、これが引き金になって再構築が始まったつう事になるのかな」
「そういう事だな。そういや思い出したよ。ユーザデータと地形データを切り離すっていうメンテナンスを確かこの辺りでやったような気がしたんだよ。ただ、このトラブルが起因だったとは知らなかったな。この頃は仕事を細かく分けて下請の会社に投げてたと思う」
「…ん〜。でも、これとバグとの関係がわかんないな。っていうかバグって話はどこにも出てこないし」
「メンテナンス履歴のほうを見てみようか」
再び青井がキーを叩くと画面が切り替わった。