15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 4

俺は超重量級戦車に脳を移植されたタチコマ、通称「超重量級タチコマ」の背中に乗り、軽く手を当てていた。意識を集中し、巨大な塊を宙に浮かせる為である。そして、このまま電源が落ちているエレベーターシャフトを上昇し地上へと出る。
この間、戦闘無し。
赤暗いトンネルは非常用電源により点灯しているライトの為。異常な静けさが辺りを包んでいた。
意識を集中しながらも俺が敵の立場なら…と考える。
市街地で連中が銃を撃ちまくるのは後でマスコミが騒ぐから不可能だとすると、俺達を食い止めるのはせいぜい基地の敷地の中だ。そして今、何ら攻撃を受けていないということは、戦力を集中しなければ勝てない相手だと判断したからだ。
つまり、基地を抜けるまでが一番厳しい。まさに山場。
戦力差が明らかなら俺達は逃げの一手がいい。反撃はおろか防御もしない、ただひたすら基地の外へと向けて逃げる…。俺はジッとタチコマを見つめていた。
「キミカ姫?僕のほうをじっと見つめて何か良からぬことを考えている感じがするよ!!!まさか目立つ的があるからと攻撃を僕に集中させて、その間に基地の外へと逃げてしまえば勝てる…と考えているんの?!」
「(静かに邪悪に微笑む)」
「おいいいいいいいい!!!!」
「さて、上に逃げるか、そのまま突破するか…」
「僕を置いて行かないで」
「兵器が自分の命を惜しんだら兵器として終わりです」
「僕達は道具じゃない」
「道具じゃんか!」
そんなやり取りをしているとハッチを開けてナツコが顔を出す。
「まずいことになっています…地上では準備万端のようですわ」
「こっちも準備万端だよ」
「こちらよりもあちらのほうがさらに準備万端ですわ!バッテリー車があるから地上に出たらすぐにタチコマさんと接続して対物シールドを展開して、基地の外へと進みましょう」
「なんてこったい。あたしのタチコマを的にして逃げる作戦が」
「私達を守る盾無しに逃げるとか…キミカさんは逃げれてもわたくしは木っ端微塵の肉塊…いえ、血の霧になって消えてしまいますわ。空へ飛ぶのも無し。2人で走って逃げるのも無し」
それを聞いてタチコマは勝利を核心したように身体を震わせ、
「ほうらみたことか!僕が言ったとおりだよ!僕達は一心同体、我ら生まれた日は違えど死ぬ日は同じ!」
そう言ってガッツポーズをキメる。
俺はペシンとタチコマの頭を叩いて、
「死ぬ前提で話を進めないで!」
そう言った。
言うが早く、俺達はいつの間にか地上に出ていたようだ。
地上に出ていたようだ、というのは、タチコマの周囲に対物エネルギーフィールドが展開されていたからだ。地上の建物などはもう既にでた瞬間(0.1秒後)に吹き飛んでいたのだ。凄まじい銃撃の嵐が辛うじて重量級戦車
の物理バリアの前に塞がれている。
「こちらに銃を向けたことを後悔させてやるぞコラ!!オラオラオラオラ!!オラオラオラオラ!!!!!」
タチコマの機関砲が耳を引き裂くような凄まじい音を立てて発射される。砂埃が取り囲んでいる米兵の一部から沸き立ち、そこに弾があたっていることを俺に理解させる。と、同時に血も肉も金属の塊も埃に混じって舞い上がる。この火力…敵に回したら大変な事になっていた。俺もチェーンガンを取り出して応戦するが、明らかにタチコマの火力1人勝ちだった。
ナツコがハッチから飛び出して側にあるバッテリー車からコードを引っ張ってくる。コードと言っても直径が10センチはあるかという太いもの。バリアが弱くなっているのが目に見えてわかる。
タチコマ!上だよ上!!!」
タチコマが1人勝ちしてたからこそ気づけた。そう、上からヘリが俺達を攻撃していたのだ。対戦車ミサイルが発射された。
俺の視界には自分(達)を目掛けて飛んでくる熱源…ということでミサイルだと電脳が判断したのだろう、カーソルが向けられ、距離が下側に表示される。なんだこのHUDのようなかっこよさ!それをじっと見つめると身体というか狙い定めた銃が勝手に向かってくるミサイルに合わせて追尾。凄いぞこれ、いちいち照準を合わせなくてもいいじゃんコレ!
俺とタチコマが同時にミサイルに向けて銃弾を放つ。
タチコマは元々戦車用のAIが装備されているから当然としても、通常ならば飛んでくるミサイルに銃の照準を合わせて攻撃しようなどと思わない。当たりもしないし仮に当たったとしてもその程度の衝撃では破壊することができないと思えるからだ。しかし、この身体になっている俺は以前の普通の人間とは異なっていた。AIが身体の神経を制御して機械のように正確にターゲッティングされたミサイルという名の物体を0.1ミリ以下の小さな動きで向けた銃の照準が自動追尾して、好きなタイミングでトリガーを引く。あまりにも気持ち良い銃撃だった。
空に巨大な爆風が起こる。
爆風が俺たちが今しがた出てきたところのハイブ搬入口瓦礫を吹き飛ばす。と、同時にエンジン音。バリアが張り巡らされている音。
ナツコがバッテリー車の準備を終えたようなのだ。
「このままタチコマの充電をしながら付きっ切りますわ!」
「えっと、わかった。でも、どこをどう行けば良いのか…」
「キミカさんはaiPhoneをお持ちですか?」
「もちのロンですよ!あ!そうか、aiPhoneにはナビゲーションシステムがあるんだったよ。テヘペロ忘れてた」
タチコマが先頭、そしてそれに守られるようにバッテリー車に乗るのは俺とナツコだった。こうすれば米軍の追っ手は先頭の車両、つまりタチコマだけをまず攻撃してくるだろう。タチコマのバリアはバッテリー車のそれよりかは薄く貼られているから、というより、バッテリー車のほうがバリアーの防御力が当然ながら上なのだ。これを戦車で取り囲んで円陣を組むと非常に厄介なのは映画を見ればわかる。
そしてこういう時でも役に立つのがaiPhoneである。
運転席に乗った俺は早速、aiPhoneからaiCarと呼ばれる車両管制システムへと接続させる。目の前にホログラムが表示され建物の奥に存在するであろう道もわかりやすくデフォルメされた状態で表示される。
瞬時に乗っている人物を俺こと「キミカ」であると見抜いたaiPhoneのアプリ「CoogleMap」はaiPhoneに搭載されているデフォルトのAI「シリ」を利用してカーステレオから話しかける。
「ようこそ、CoogleMapへ!aiCarとCoogleMapによる快適なドライブをお楽しみください!」
と同時に車のアクセルやハンドルがCoogleMapアプリケーションによって自動で制御されて進み始める。地図がホログラムに混じって表示されて、車両管制システムと融合した「バリア用バッテリー残量」や、戦車の視点で砲台や銃器の根元につけられたカメラからの映像なども余計ながらに表示されている。
こうして表示面では快適になった車両管制システムaiCarとナビ「CoogleMap」ではあるが、先ほどの言葉はすでに嘘になり、「快適な」と言った言葉とは全く裏腹に銃弾の雨あられが降り注ぐ中を進んでいった。
「この車両は銃撃されております。敵を排除しつつ移動してください」
って…そこもナビしてくれるんだ…。