2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

9 報復者 7

「ヒッ!」 男は声を上げる。その白いものを見つめるがそれは馴染み深い変哲も無いものだった。どこにでもある袋。スーパーマーケットの袋だ。「暮らしのパートナー」という宣伝文句が袋の表面に印字されている。 「な、なんだ…なんなんだ?」 男はゆっくり…

9 報復者 6

車は険しい山道を下っていった。 後部座席の男は窓から山道を見る。 「大丈夫、追い掛けて来てない。大丈夫だ」 追い掛けて来ているかどうかは透明なモノだから解るはずも無い。だがそう言う事で少しでも仲間の気持ち、自分の気持ちが和らぐことを望んでいる…

9 報復者 5

突然「ズバンッ」とその男の腕が鳴った。腕には赤黒い線がついている。そしてその男の腕はその線を境目にしてズルリと斬れ落ちた。 「ウワッ!ウワァァァー!!」 「キャァァァァ!」 さっきまで力強く少女の身体の自由を奪っていた腕が落ちてきた。ホースか…

9 報復者 4

ふと、大男が行為を止めた。 その視線は廃屋に敷かれている古びた絨毯に向けられる。それはベッドなどと一緒に男達が運び込んだものだ。 「どうした?」 カメラマン役の男は大男に尋ねる。 大男は目前の絨毯の一か所を指差しながら言う。 「足跡が…」 「はぁ…

9 報復者 3

使われなくなった筈の廃屋、そこは日々不良達の溜まり場となっていた。廃屋は農作業で使用される機械やドロイドを置く場所になっていたようだが、持ち主は所有権を放棄したのだろうか、そのまま放置してある。 明かりが灯り、ワゴンから降りた不良達が廃屋に…

9 報復者 2

「捕まえた!」 目前の男に気を取られた少女は口を塞がれ、地面に付いていた足は離れた。後から別の男が少女を抱きかかえたのだ。 そのままワゴンに引摺りこまれる少女。 「んっ〜!」 叫ぼうとするが既に遅かった。 無情にもワゴンの扉は閉まり、既に車は進…

9 報復者 1

冬は夜が早く来る。 6時という時刻でも夏と明るさは大きく違う。だが太陽が早く沈むことは、暗くなるだけではない。 湖小山市の商店街、大通りから小さい路地に入る角に車が停車していた。その白いワゴンのドアは全開で車中、そして周辺に男達がたむろしてい…

8 魔法少女ミミ 8

芝川が部屋から去ってからみのり一人になった部屋。 みのりは写真を見ていた。 みのりとみどりが嬉しそうに笑っている写真。それはみどりが部屋に来たときに一緒に撮ったものだった。その笑顔を見つめているとみのりの表情も綻んでくるが、綻んだ表情は次第…

8 魔法少女ミミ 7

芝川がみのりの部屋に来たのはそれが初めてだ。そして第一声。 「思ってたより、意外と奇麗な部屋なんだな」 芝川にもみのりにも馴染み深いリュックを肩から下ろすと、みのりに案内されるまま部屋の奥へと足を運ぶ。部屋をぐるりと見渡し、その視線は一点で…

8 魔法少女ミミ 6

(凄い…) みのりは目隠しのまま自分の手を見つめる。 ドロイドのジャブを受け止めた手、体当たりをした肩、それらには自分が予想した結果は無い。硬い装甲に体当たりをすれば肩は酷く痛むはずだが、まるで触れていないかのように僅かな感触しかない。 ふと…

8 魔法少女ミミ 5

倉庫から引っ張り出してきたのは格闘の練習用ドロイドだった。空手、柔道、ボクシング。様々なフォームがインプットされている。 みのりはドロイドの背中にある幾つかのスイッチを押す。 「おいおい…マジかよ」 ギャラリーにどよめきが響き渡った。 みのりは…

8 魔法少女ミミ 4

「凄い動きをする人がいる」 アリーナで静かな注目を集めていた。 アリーナが閉館する深夜、一部の人はアリーナへと足を運ぶ。ある女性が一人練習に浸っているのを見るために。 みのりだった。 「何の動きかな?新体操かなにか?」 ギャラリーは口々にみのり…

8 魔法少女ミミ 3

暗い部屋の思い出はアニメオタクである吉村を思い出させる。だが今となってはそれらすべてが「あるべくしてあった」ようにさえ思える。 吉村秀人は魔法少女ミミの揺ぎ無い正義を感じていた。だがそこから学び取った正義があったとしてもそれはあくまでアニメ…

8 魔法少女ミミ 2

芝川はなんどかドラム缶に触るが首を傾げるだけだった。 「君だけの能力なんだろう」 みのりはゆっくりとドラム缶を撫でるように触れる。前とは違い、強制的に記憶が脳には送られなかった。 みのりの頬を涙が伝う。 「今まで何にも出来なかった…でも今はどん…

8 魔法少女ミミ 1

「武器が欲しいの」 芝川とみのりはノクターンに居た。 二人はお互いの顔は見ず、俯いたままだ。一見すれば別れ話の最中のカップルにも見える。 「そりゃ…無理だよ」 芝川は頭を掻き毟った後で小声で話す。俯いたまま、言う。 「そいつらが木村みどりを殺し…

7 霧雨の炎 6

「ッ!」 みのりはドラム缶から離れると後ろに倒れこんだ。 身体が熱い。手や足が赤く腫れ上がった。激痛が身体に走る。 (違う…これは記憶。私の身体が勘違いしただけ) ゆっくりと身体の痛みと腫れが退いていく。 みのりは泣いていた。 高校時代、自分自身…

7 霧雨の炎 5

「おい、早く代われよ!俺の番だぜ」 みのりの下腹部から背中を伝い頭まで激痛が襲った。怒りや悲しみ恐怖が入り混じった感情が思考を覆い尽くす。 男が覆い被さっていた。 男が腰を叩きつけるように上下する度に痛みが身体を通り抜ける。手は男の身体を少し…

7 霧雨の炎 4

「ドラム缶で焼かれた女子高生の死体」 木村みどり殺害のニュースは日本中に知れ渡った。 事件がショッキングであればあるほどマスコミと国民は騒ぐ。そして瞬く間に議会に影響を及ぼした。程なくして政府は全力で事件の解決に力を注ぐ事を決議した。 日本中…

7 霧雨の炎 3

人は事実を頭の中で作り出すという。 見えたものが事実ではなく、頭で認識して初めて事実となる。それが認識を否定したくなるような酷い事実であっても、ゆっくりと事実が染み込んでくる。 時間は待たなかった。 気が付けばみのりは木村みどりの葬式に参列し…

7 霧雨の炎 2

みのりはその日のニュースから目を離せなかった。ニュースチャンネルでは延々と日本各地で起こったニュースを繰り返し流し続けた。何かの間違いならニュースの中にはみのりが予想するイメージは現れない。 11:00。 まだ小雨は止まない。朝の轟音よりも小さな…

7 霧雨の炎 1

マシンガンのように叩きつける雨音で目を覚ました。 朝の6時。 普段なら鳥の囀りや出勤する人々の車のエンジンを鳴らす音が朝を知らせる。恐らくその朝も同じ音があるのだろう。それを掻き消すような雨の音。 みのりはカーテンを開けると普段よりも少し暗い…

6 サッカーボール 4

病院の休憩室に顔や身体にガーゼや湿布を貼ったみのりと守山がいた。 普段はあまり姿を現さない店長も今日ばかりは直ぐに駆けつけていた。警察官と何か離す店長が廊下の奥にいる。 「酷い目にあったね…」 守山が口を開く。 みのりは守山をちらと目つめた。 …

6 サッカーボール 3

「お、おい!止めろ!」 その声は守山の声だった。 怒りとも恐怖とも取れる表情をした守山は不良の1人を突き飛ばしてみのりの腕を取り、囲まれている中から救う。 「なにすんだ!コラ!」 突き飛ばされた不良が起き上がって守山の腕を掴む。そのまま膝蹴りを…

6 サッカーボール 2

「酷い!」 黙ってみておくことが出来ず、みのりは不良達に近付いた。 守山も慌ててそれに付いていく。 「ちょっと、や、やめなさい!その人が何をしたっていうの?」 その声を聞いた不良達は一斉にみのりの方を向いた。あっという間にみのりを取り囲む。取…

6 サッカーボール 1

その日は夜からの勤務だった。 みのりはいつもの様に自転車でゲームセンターへ向かった。狭い路地を曲がると小さな自転車用の駐車場がある。そこに自転車を止めカギを付けていると表の商店街の方から声がする。 誰かが怒鳴る声だった。 商店街の方に近付くう…

5 ロボットオタク 7

再びコーヒーを持つと、それに口を付けながら語る芝川。 「ドロイドのお陰で戦争に勝てたじゃない」 芝川は首を横に振り、そして黙って手も振った。 「そのドロイドが今ではテロもしている。皮肉だよ。ロボットに意思を持たせても所詮武器なんだ。それなら人…

5 ロボットオタク 6

吉村秀人こと菅原みのりとの電話が切れて小一時間程度経ってカフェの入り口の扉にかかった鐘がカランと安っぽい音を立ててなると、コツ、コツというパンプスが硬い地面と当たる音が聞こえる。 その音は芝川の隣まで来るとみのりが姿を現した。 「こんにちわ…

5 ロボットオタク 5

吉村が学生時代、金に困って携帯電話の契約を解除したのを思い出していた。アパートの電話だけは辛うじて両親の契約なので残っていたのだ。芝川は携帯電話と取り出すと吉村の電話番号を一覧から選び電話をかける。 「その電話番号は使われておりません」 芝…

5 ロボットオタク 4

二人の男は机一杯にアニメのパンフレットを広げ、これがいい・あれがいいと吟味している。とても年齢相応の行動には思えないが電脳街では珍しくは無い風景だ。デブの男は体格に似合わない高音域の声で恐らくアニメのキャラ(女)の声真似をする。 芝川にはそれ…

5 ロボットオタク 3

世界中にドロイド兵器の恐怖を伝えた芝川をよそに、本人は決して自らの開発したデーモンに満足していなかった。 彼が本当に造りたかったのは意思を持ったドロイドではなくモビルスーツと呼ばれる搭乗可能な人型ロボット兵器だった。彼が幼い頃に見たテレビア…