9 報復者 1

冬は夜が早く来る。
6時という時刻でも夏と明るさは大きく違う。だが太陽が早く沈むことは、暗くなるだけではない。
小山市の商店街、大通りから小さい路地に入る角に車が停車していた。その白いワゴンのドアは全開で車中、そして周辺に男達がたむろしている。あるものは煙草を吹かし、あるものは酒を呷る。中学生の様に見える子供から20歳ぐらいの若者まで幅広い年齢の男達。
彼等の馬鹿騒ぎから発せられる笑い声が暗い路地に響く。
路上に寝転がることや、ステレオのボリュームを"迷惑"が解りやすいように上げる、その風景は決して街に馴染むことは無い。
だが誰もそのワゴンと男達が「そこにいるものではない」と思いながら通り過ぎていく。不快感を煽る風景だが、ひとたび男達と目が合うなら自分にも危害が加えられかねない、という不安からだろう。通り過ぎる人々はその場所だけ足を速めながら進む。
1人の中学生ぐらいの少女が俯いてその場所を通り過ぎようとしていた。おそらく大通りにある塾の帰りなのだろう。暗く人目から外れた路地に入り、本能的に危険を察知して足を速める。
だがその足は止めざるえなくなった。
目の前に男が立ちはだかったのだ。
少女は俯いていた顔をゆっくりと上げる。頼り無い薄暗い街灯は男の背後にあり、逆光で少女からは男の表情な見えなかった。