15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 2

奴の人工筋肉の腕は俺の(美少女である)か細い首をひっつかんでそのまま壁へと叩きつけた。随分と派手な壁ドンである。一瞬だけ衝撃を検知した俺の物理バリアが自動的に作動し、壁ドンされた美少女の背後にある壁に衝撃と電磁パルスを放ったではないか。
だが告られる側の当の本人である俺は、このように冷静にモノローグを語っている場合ではない。
タチコマァ!!!いつまで鍵をカチャカチャやってるつもりなんだよ!!アンタがピッキング泥棒だったらチンタラやってるから警察に捕まって裁判も終わってムショにブチ込まれてる頃合いだよ!!!」
と、俺は暗に「お前、作業がトロすぎるんだよ」とアピールし、
「こっちを手伝ってよ!!!」
そう叫んだ。
その「手伝ってよ」の「手」のところでタチコマは痺れを切らし、両手のガトリング砲を使ってサイボーグ野郎に叩き込む。
そして弾丸は奴の腕や肩や頭に命中した。
身体が吹き飛ばされれそうになるも体勢を維持しようとする様は、しつこく壁ドンして告白攻めしてくる男を連想させる。
しかし、特殊な合金で骨格の部分を構築されているサイボーグなのか、弾はあいも変わらず肉の部分だけを吹き飛ばして骨格は露出するに留められ、お陰で、人間の肉から機械が飛び出ているという人ならざる不気味な姿となり、人混みに紛れても認識できる姿になってくれた。
ついにはタチコマ本体が急速接近しサイボーグ野郎に体当たりを食らわせる。壁ドン変態野郎を美少女の側から突き飛ばして、突き飛ばすだけでは飽きたらず弾を叩き込みながら遠くまで引き剥がす。
選手交代だ。
俺は俺の開け方で電磁ロックされた扉をあける。
まず武器リストからグラビティ・ブレードを取り出して扉に突き刺す。ほんのわずかな手応えの後、扉を貫通して周囲を吸い取っているのがわかる。そして、この分厚い扉がただならぬ分厚さを誇っていたこともわかった。タチコマが通りで俺では無理だと決めつけやがったわけだ。
50センチはあるだろうか、鉄だかなんだかわからない様々な合金で塞がれている…たかだか人間の人質を入れておくためだけにこの分厚さはいらないだろうが…とも思ったが、続行。
そのままブレードでぐるりと円を描くように扉を切り裂き、グラビティ・コントロールを正面の扉に向けて発動。一瞬周囲の物体が宙に浮き、また降りる…と共に正面の扉がメキメキと音を立てて凹む。もちろん、これだけの力を出せば、俺が切り裂いた円の部分は奥へ向けて吹き飛んだ。
内部は戦車などが置いてあるカーゴのような構造になっていて、赤暗い照明の下には多脚戦車が並んでいる。そしてその足元に研究者っぽい姿の女性がチラリと見えた。隠れている。
ふとこの研究所に雇われている一般人の研究者かと思ったが、アメリカ人にしては背が低いし髪も黒い…ひょっとしたら、と俺は尋ねる。
「石見圭佑さんの妹さんですか?」
驚いたようで、その女性は驚いた顔で多脚戦車の足元から顔を覗かせて、俺の姿を伺う。
「あ、貴方はどなたですの?」
日本語だ。久しく聞いてなかった日本語が聞けた。
「あたしは救出に来たものですよ。デブ、じゃなかった…石見圭佑さんの知り合いです。頼まれて来たくもないけど来ました」
女性は多脚戦車の足元から這い出て、俺の前に姿を現した。
「お兄様のお知り合い…ですか。わたくしは『石見夏子』。石見圭佑の妹ですわ。遠路はるばるありがとうございます…」
薄暗かったが、その話し方を聞いていたら清楚な女性の印象が漂ってくる。ケイスケの妹だからどんなぽっちゃり系かと勝手に妄想していたが、実際に会ってみると本当にケイスケの妹なのかを疑いたくなるぐらいに…華奢な身体、整った顔立ち、セミロングの黒髪、胸は…BカップかCかな…俺(美少女)に比べると背は少し高い。兄貴と似ているところがあると「アラを」探すのなら、1つだけ、メガネをかけているところぐらいだ。赤渕の楕円形のメガネ。
「お兄様にお願いされて…ですか。お兄様はわたくしのことをなんと?」
普通に考えれば血の繋がった兄妹で、兄の指示で妹が救出されている最中なら疑問にすら思わないところだ…だが、この兄妹は違う。ちょっと前までは兄貴のケイスケは妹は救出しなくてもいいなどとほざいていた。
俺がその質問にどう答えようかと迷っていた時だ。
俺はうっかりしたことにも今は戦闘中だということを忘れていた。それを思い出させてくれた。タチコマがガトリング砲を撃ちながら後退してきたのだ。チカチカと物理バリアが反応しているからタチコマも撃たれながら後退している。
「ヤバイな…角に追い詰められた感あるね」
そう俺が言うと石見夏子こと…ナツコは戦車の脇に置かれている操作パネル前に駆け寄りカタカタと何かを打ち始めた。そしてその作業をしながら俺に言う。
「基地が放棄されるという情報が流れてきましたわ。逃げるチャンスは今しかないと思って準備をしていましたの」
「え?逃げる準b…」
俺が言いかけた時、操作パネル前の多脚戦車が動く。あまりにも予兆が感じられないから思わず身体をビクつかせる俺。
「ちょっと待って下さいまし。コックピットに乗れるよう、戦車を座らせますので…」というナツコ。え、そんなの飛び乗ればいいじゃん…というか、それを知らないから言ってるのか。
タチコマ!援護頼むよ!」
「わかってるよ!!人使い…いや、ドロイド使いが粗いなァ!」
タチコマが再びガトリング砲を放つ。
見れば俺が壊した入り口から続々と米兵らしき人々が入ってきてる。さっきドアの前で開けようとしていた連中とは明らかに違う。何が違うって?『装備』が違う。
タチコマのガトリング砲でも防ぐ物理バリア、何人かは光を捻じ曲げるスーツを着ているのか、姿が見えない…(が目を凝らせば見える)などなど完全に俺達を殺しに来てるのが装備から伝わってくる。
俺はグラビティ・コントロールで俺とナツコを浮かせた。
「ひゃっ!!な、なんですの?!」
「操縦席に行くんだよ」
既にハッチが空いている。
滑りこむように乗り込む俺とナツコ。ナツコが操縦席に、俺はその後ろに立つ。ハッチは勢いよく閉まる。
「あなたは何者ですの?!さっきの力は?」
「ドロイドバスターの力だとか言ってたよ、お兄さんが」
「ド、ド、ドド、ドロイドバスター…!!え?ということは、えっと、その、お、お兄様の研究はついに完成したのですわね…!!」
「その研究結果を持ちだした…っていう疑いをかけられてたみたいだよ。ナツコさんが」
「そ、そんな、わたくしは新兵器の開発にと連れ去られて、ドロイドバスターに関する研究は何も…えっと、」
衝撃波がこの内部まで伝わってきそうなほどに、明らかに戦車に何かがあたっている。そう、こんな話をしている場合ではないのだ。
言うが早くナツコはさっさと電源を入れる。
計器それぞれが輝いたかと思うと、戦車内部がまるでガラスのように透過し周囲の景色が丸見えになった。そして取り巻く兵士達の姿で戦車のAIが認識したものにターゲッティングが行われる…。
これは映画で見たことがあるぞ…凄い。
そのターゲッティングされた兵士達は一斉に出口に向かって逃げ出すのだ。ちょっと考えればわかることだ。さっきまで人質として閉じこもっていたナツコがじつは戦車の準備をしていた。
そして、それを動かせていたのだ。
「お供の多脚戦車をこの戦車の背後に」
ナツコは言う。
「了解」
そう言ってから俺は電脳通信で、
タチコマ、この戦車の背後に隠れていて』
『もう隠れてるよ!!』
早いな…。
「主砲を撃ちますわ」
「え?」
戦車は少し身体を浮かせた後、恐らくは後部の足を踏み込み、衝撃に備えるっていうのが動きでわかる。…そして、
(ドゥン)
容赦なく砲弾が入り口付近に命中。
一瞬だけ物理バリアの反応が見えたものの、
(ドゥン!ドゥン!)
容赦なく続けざまに砲弾を…っておいおい、本当に容赦無いな。
さっきまでバリアで自分への被害を防いでいた米兵が、今はもう木っ端微塵になっている。瓦礫の中に手や足が散らばっているからわかる。中にはサイボーグ化したものがあるから、さっきのサイボーグ野郎も殺されたんじゃないのか?
よく見たらコックピットにナツコが持っていたノートPCが接続されている…これ、全部ハッキングしてやってるのかよ…凄い。さすがは石見圭佑の妹だ。やっぱり凄い。
さらに透過していた景色が変わる。
このハイブの構造が表示されたのだ。
「出口はここと、ここと、ここですわ。でも米兵が見張っています。だからこのエレベーターを使って外に逃げますの」
「電源はさっき落とされてたよ?」
「えぇっと…あなたの…」
「キミカでいいよ」
「キミカさんの、その、宙に浮く力があれば…」
「なるほどね」