15 ニイタカヤマノボレ(リメイク) 3

先程は一時的にもこの格納庫には電源が来ていたみたいだけれども、ナツコのハッキング等に不利になるようにする為か、連中は再び電源を落として真っ暗闇にしていた。
戦車に残っているバッテリーとタチコマのライトだけが頼りだ。
しかし、労せずともすぐに発見できた。構造上、戦車格納庫の近くにエレベーターが無ければ地上への搬入出が面倒くさい事になるから当然と言えば当然かな…そう、エレベーターは格納庫の直ぐ側にあった。
再びタチコマが電磁ロックを解除しようとする光景にデジャブを覚える。そしてこのオチは結局開けられないで敵を招くことになるわけだ。
俺はコックピットから例の力で飛び上がり、戦車よりも巨大なエレベーター扉の前に着地、そしてまたしても例の力を用いて扉を開いた。まるで神殿の魔法により封印が施された扉を何か特殊な力を持った神官が開くかのように…(特殊な力を持っているところは同じだ)
エレベーターの物資や人を搭乗させる箱状のものは存在しない。
地上まで続くである空洞が天高く伸びているだけだ。つまり、連中はこのエレベーターを利用できないようにしていることになる。
「おぉ!!今度はうまくいったよ!」
とかタチコマが言うから俺はすかさずツッコミを入れる。
「あたしが開けた」
「え?」
「あたしが開けたの、君は何もしてないでしょ、今も、さっきも!」
「ひっどいなぁ!ぼくはハッキングを頑張ってたじゃないか!」
「やっててもそれが結果に直接繋がって無いなら、それは人間の世界では何もしてないことになるんだよ。うまくいった時に『呼吸をしていたからうまくいった』だなんて言わないように」
「だいたい野蛮なんだよ!人間なら強引にこじ開けるんじゃなくて、こうやって電磁ロックをハッキングしながら…と、うわぁッ!」
俺は例の力をもってして、今度はタチコマを中に浮かせた。
タチコマはジタバタしながら言う。
「やめろダースベーダー!僕はフォースの暗黒面には堕ちないぞ!」
「さっきから思ってたんだけど、君、キャラが変わってない?」
「え?僕の芸風は昔からこうだけど…」
「もっと丁寧な言葉を話していたような…ま、いっか」
タチコマをエレベーター内に放り投げる、そして浮かせたまま…。今度は超重量級の戦車のほうを浮かせようと…するのだが…。
浮かない。
いや、1センチぐらいは浮かせれてるのだけれど、それも片方だけで全体を持ち上げることができない。
「おーい、キミカ姫ぇ、そっちを浮かせたら気が抜けて僕のほうを落とすっていうオチはやめてよね」
とか後ろでタチコマが俺に言う。
「んん…フォースの暗黒面のパワーが足りない…おっかしいなぁ、ビルを浮かせるぐらい余裕でできたのに、この戦車が重いのか、あたしの力が鈍っているのか」
タチコマを一旦エレベーターシャフト内から引っ張ってきて床に下ろすと、今度は精神を目の前の巨大な戦車に集中させる。そう、マスター・ヨーダが若きジェダイが沼に落としちゃった戦闘機をフォースのパワーで持ち上げるかのごとく…。
「キミカさん、もしかしたら、その力は戦車のような重いものは動かせないのかもしれませんわ…戦車は合金の塊ですの。見た目は小さいものでも意外と重たいですわ。例えばこの戦車の場合は重量は250ト…え?う、浮き上がってる?!」
「マスター・ヨーダにできるのなら、あたしにもできる」
そして、この状態でェ…。
すっと俺は手をタチコマのほうに片方だけ向けた。浮かせた状態を維持してタチコマと両方を浮かせる…。
(ずスゥン…)
駄目だ。
はにゃーん、全然動かせないにゃーん」
と俺はアニメ声で叫ぶ。
「超重量級の戦車に意識を集中させると、もう片方は動かせなくなるんですのね…」
そうナツコが言う。
俺はタチコマをちら見してから、
「しょうがないなぁ…置いていくか…」
タチコマは言う。
「そうだよ、置いていってもいいじゃん、3人でなんとかなるよ」
俺はタチコマの足の部分をペシペシと手で叩きながら、
「今までありがとう、タチコマ。とりあえず救出するよう軍にお願いしておくからここでお留守番をしておいてね」
「おいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
怒涛のツッコミを入れてくるタチコマ
「さっきの攻撃を受けてわかったんだよ、これからさらに攻撃が増すのに防御力が圧倒的に足りない」
「あんたアンドロイドのAIよりも冷酷な思考回路してるよ!」
「合理的な判断だと言っていただきたい」
「僕のほうが奴(重戦車)よりも愛嬌があるよ!!ほら、水戸黄門はハチべぇがいるからストーリーにメリハリが出るんだよ!」
「でも戦闘中はハチべぇ居ないしなぁ…」
「…」
そんなやりとりを俺とタチコマがしているのを見て、間に割り込むナツコ。さすがに救出に来てくれて今まで一緒に戦ってきた仲間を見捨てるのは気が引ける…ということだろうか。
俺に比べて実に人間的な思考をしている。
「こうしましょう。タチコマさんのAIを重戦車に搭載しますわ」
「え?そんなことできるの?」
「えぇ、抜き取って挿入するだけですわ」
俺とナツコは直ぐ様タチコマの背後に回った。
「はやく、ハッチを開けてよ。タチコマ
「え、ちょっ、心の準備が…」
「(ペシペシとタチコマの頭の部分を叩きながら)心の準備なんていらないよ、今から心の部分を取り外してはめ込むだけだから」
「簡単に言ってくれるなぁ!!人間でいうところの脳みそを取り外して他の人間の脳みそと交換するようなものでしょ!!」
とジタバタ暴れるタチコマ
ナツコが言う。
「人間の脳は体全体に張り巡らされた神経回路とセットですから、事実上、脳は身体とほぼ同じですわ。ロボットのAIのように簡単に取り外しはできませんの」
「…お手柔らかにお願い…」
タチコマはぷすぅーんと音を立てて身体の動きを止めた。
それからナツコがハッチを開けて現れた液晶画面から何かを操作した。パスワードの入力画面などもでていたのだが、何故かそれを知っているようであっさりと認証を終わらせ操作パネルが現れる。
ピコピコといくらかの選択肢を選んだ後、輝いている液体の入った筒状のものがタチコマの頭の部分から抜き出された。
「おぉ…凄い、これが戦車のAIかぁ…」
「正確には記憶や性格などに司る部分ですわ。処理系はまた別ですの。新型の軍用記憶媒体ですわ。衝撃に耐えれるように形状が液体になっていますの…あれ?」
「ん?」
「何者かが…焼ききったような痕が…防壁を突破した痕跡が見られますわ。もしかしてハッキングを受けていましたの?」
「さ、さぁ…」
そういえば筒の端っこが黒く焦げている。
「もしハッキングを受けていたのなら、こちらの作戦行動が米軍側に全部漏れている可能性が高いですわ…」
「それはどうなのかな…もしそうなら、あたしだったらハッキングを受ける前と後で話し方を変えたりはしないかな。怪しまれるだろうし。それに、真っ先に救出に来たあたしを始末するかなぁ」
「言われてみるとそうですわね。米軍とは関係ない誰かからのハッキングでしょうかね。AIを乗っ取った後も私達を助けるように行動を共にするところが不明ではありますけれども…あぁ…このタイプは…人格の部分だけを乗っ取って記憶をそのまま引き継いでいるのかも…でも、なおさらなぜハッキングしたのか不明になってきますわ」
結論はこの件については『据え置き』。
このまま放置して帰るっていうのは考えられたけれども、そうなってくると今と同様に重量級多脚戦車の操縦をナツコがしなければならなくなるのでタチコマのAIを搭載するほうが楽だというナツコの判断があった。
かくして、無事にタチコマの脳幹移行作業が完了した。
重量級多脚戦車の電源を入れると再起動が始まった。
そして開口一番に言う。
「ぉ…ぉぉおぉ…ぉぉぉッ!!これが…僕の…カラダ」
と、何故かガタガタと身体を震わせ始めた。
「良かったじゃん、でかくなって」
「私の戦闘力は53万です」
「はいはい。言うと思った」
「…ですが、もちろんフルパワーで奴らと戦う気はありませんからご心配なく…」
「いや、戦えよ!」