2010-02-01から1ヶ月間の記事一覧

15 幸せのかたち 2

神殿は一つの通路ではなく、広大なダンジョンのように複雑に絡み合っていた。そもそもはLOSの世界が生まれた頃から初心者向けのダンジョンとして造られた経緯がある。初心者向けとは言っても一応はダンジョンなのだから、それを無理に神殿と呼んでしまうと神…

15 幸せのかたち 1

暗い神殿の中を風雅の火遁の術の一つが照らしている。 その後ろをついて歩いているのは豊吉だった。 風雅達が神殿に入ったときは全員が同じフロアに居た。だがなんらかの仕掛けが作動した後、風雅達は記憶が無くなってしまったのだ。そんな状況で大勢の人数…

14 忘却の神殿 5

「んで、意見を聞かせてもらおうか、東屋」 椅子に踏ん反り返って腕を組んで、ちょっと喧嘩腰で東屋に言う青井。 それに対して東屋は落ち着いてはいない。彼の意見は最初からゼロだった。ただ、今やらなければならない最終目標はあげたけれども、それに至る…

14 忘却の神殿 4

『おい!冗談はやめろ!』 青井が怒鳴る。 だが、そもそも如月が冗談など好きなタイプな男性ではないことは青井が一番知っている。だからこそ、今のがあまり聞くことが無い如月のジョークの一つだと思いたいのだ。 『誰だ?どこにいる?』 「青井さん、やめ…

14 忘却の神殿 3

神殿に入ったとたんに風雅は異変に気付いた。それはフロアを照らすために設けられた魔法で稼動する照明がついたからではない。 豊吉以外全員が一瞬だが初めてそこで会ったかのような感覚があったのだ。なぜ彼らは自分達と一緒にここにいるのだろうと。だが、…

14 忘却の神殿 2

風雅達はキムナイの村で忘却の神殿について詳しい者を連れて神殿前に来ていた。最初こそ同行するのを渋っていたその村人の男だったが、レッカ女王の指示なので仕方無しに入り口までは案内する事になったのだ。 「その神殿の中に入ったことはあるのか?」 ロ…

14 忘却の神殿 1

風雅達がタロットの置いてあったフロアからそれらのカードを持ち出した瞬間、タロットは全てが輝いた。そして暫くしてからその輝きは収まったのだ。 「何があった?」 レッカが真っ先に問うた。 「判らない、光ったみたいだが」 何か変化があったのかと、風…

13 バベルの遺産 9

レッカ女王は普段から彼女が持ち歩いている分厚い資料を開きながら話し始めた。それらには彼女が今までバベルの塔に関する調査した記録が書いてあるのだろう。 「今なら、その言葉の意味が判る気がする」 そして続けて言う。 「賢者バベルがこの塔に篭り始め…

13 バベルの遺産 8

通信を終えてまだ釈然としない風雅がいた。 「どうだったのだ?」 レッカ女王が気になって話しかけてくる。 風雅は、ふと、先ほどの話を思い出していた。レッカ女王…彼女が日本人ではないという事。彼女がLOSシステムが今の状態になるずいぶん前から人望が厚…

13 バベルの遺産 7

「どしたんすか、青井さん」 東屋はただ青井の隣で彼が操作するターミナルを見ているだけしか出来なかった。そのディスプレイには様々な資料が表示されている。何も知らない人間が見れば何か日本語が書かれている資料と思われてしまうが、東屋はその資料が何…

13 バベルの遺産 6

「よし。今の状況を整理してみよう。これは謎解きだぞ。ゲームだと思って考えてみようか、東屋」 青井はそう言って、ぽんと自らの膝を叩いて東屋に向き直った。 一方で東屋はにやりとしながら、 「ゲームと思ってって、ゲームじゃねーのコレ」 「ああそうだ…

13 バベルの遺産 5

『バーコードリーダーがないのでなんとも言えないのですが』 風雅はレッカ女王が案内した場所の前で紙に記述されたバーコードを見ながら外の世界と連絡を取った。 「バーコード?この文字はバーコードと呼ぶのか」 「ああ。外の世界の文字だ。正確には人が読…

13 バベルの遺産 4

「バベル、バベル…」 念仏のようにその言葉を続ける東屋。 『ちょっと待ってろよ、如月。今東屋が考え中だからさ』 『はい、じっくり待ってますよ』 「あ!」 突然東屋が叫ぶ。 「どうした?思い出したか?」 「あ〜あ〜…ん?でもマジでそうなのかな?」 「…

13 バベルの遺産 3

青井は昼食として食べていたホットドッグの最後を口に放り込むと、包まれていた袋とキーボードの上にかぶせてあるラップを包んでゴミ箱に捨てた。 「タロットカードか…LOSのシステムに存在しない概念だ。思惟的な何かを感じるな。東屋、お前、これをどう思う…

13 バベルの遺産 2

部屋に入る。 そこは奇妙な文字で書かれたパネルがいくつも並んでいる場所だった。 既に調査員がそれらのパネルについての記録を残しているようだ。それらの文字はゼノグラシアにあったものとは違うものだ。仮にこの塔がゼノグラシアへの物資の供給ラインだ…

13 バベルの遺産 1

その日のうちに風雅達は塔を降り始めた。 何度か現実の世界と通信はしたが、彼らがこれからどうするべきか、青井も千葉も答えを出せなかったのだ。 登ったときと同じく、装置を使う事で簡単に降りる事はできた。 「これからどうするんですの?」 キサラが風…

12 ゲーマー 8

EAI社に再び訪れた東屋。 今度は彼の孫を連れてだった。 たまたま休憩室でコーヒーを飲んでいた青井の前に孫の雄二を紹介する。 「前にゲームに詳しい奴が欲しいと言っとったじゃろう?わしの孫なんじゃが、どうかの?四六時中ゲームばっかりしとる不肖の孫…

12 ゲーマー 7

雄二は小山内が運転する車の後部座席に座っていた。 警察の専用車両なのだろう。生活観が無いので女性の持ち車とは思えない。タバコの香り、それから、その香りに消臭剤をつけたような独特の香りが周囲にあった。 たぶん彼女も刑事なのだろう。自分と年齢が…

12 ゲーマー 6

家へ帰った雄二は廊下でパートの仕事から戻った母親と出会った。 「ゆう君、どこ行ってたの?」 「んなことテメェには関係ねーだろ」 通り過ぎようとした時、 「ゆう君、さっきおじいちゃんから連絡があってね、」 と母親は言いかける。 「はぁ?ジジイが俺…

12 ゲーマー 5

隣町の住宅街まで電車とバスで移動して、ようやく雄二の友達の家につく。 普段なら元気に出迎えてくれる彼の友達は今はいない。 玄関に出迎えたのは母親だった。「わざわざ遠いところからありがとうね」と彼女は言った。表情からは疲れが見える。電脳通信で…

12 ゲーマー 4

雄二は卒業生名簿の住所の欄を見ている。 名前をみると顔が思い浮かんで、それからその友達がどういう進路を進んだのかという事も頭に思い浮かんだ。就職、大学、専門学校、就職…。最初こそ連絡をしようしたが、あらためて考えてみると平日の昼間に就職や大…

12 ゲーマー 3

東屋雄二は人生をあくまで死ぬまでの暇つぶしのように考えていて、普段から何をするにも目立たずただ惰性でやっていた。その彼のもとにある日訪問者が現れた。彼の祖父だった。 誰かが来たと思って泥棒ではないかと、ちょっとステレオの音を下げると祖父が何…

12 ゲーマー 2

東屋雄二18歳。 ごく普通の家庭に産まれて、特に才能に優れるわけでもなく、かといって成績の悪い部類の人間に成り下がるわけでもなく、ある意味目立たない彼は、学生時代を目立たないままに終わり、そして今は家の外に殆ど出る事がない為、その存在を周囲に…

12 ゲーマー 1

小山内の運転する車は住宅街へと入っていく。 「お孫さんって歳はいくつなんです?」 「18かなぁ」 「あら、私と一つしか違わないじゃないですか」 「おぉ、やっぱりそうか。小山内さんを最初に見たときにそう思ったんだよ。孫と同じぐらいの年齢じゃないか…

11 スポット・インスペクション 5

EAI社の玄関から出て駐車場へと向かう東屋と小山内の二人。 「どうじゃったかの?感想は」 「え?ん〜…犯人の検討は全然つかないって感じでしたね」 「ああ、うん。それもあるが、さっきの青井さんといったかな。彼の雰囲気は」 「雰囲気…ですか?」 「うむ…

11 スポット・インスペクション 4

「それでさっそくなんじゃが…」 「得をする奴は誰か、ですよね」 「うん」 「商売敵というのは短絡的ですかね…どうだろうかなぁ。このゲームはどっちかというと流行のゲームっていうより、馴染みのゲームなんですよ。バーチャル空間で遊ぶタイプのゲームって…

11 スポット・インスペクション 3

ここではなんだからと、青井が案内したのは休憩所だった。 2階のフロアの隅にある、ベランダつきの休憩スペースでは自動販売機やらテーブルやら、それから今日は機能していないが売店もある。そしてタバコが吸える様にと灰皿も用意されてはいたが、使われて…

11 スポット・インスペクション 2

エレクトロニック・アーツ・インダストリー社玄関前に二人は訪れていた。 普段よりも静かになった玄関を抜けた。受付には誰もいない。電気もついていない。だが廊下の奥からは人の気配がしていて、明かりも漏れている。そのほうへ向かって進んでいくと、突然…