12 ゲーマー 5

隣町の住宅街まで電車とバスで移動して、ようやく雄二の友達の家につく。
普段なら元気に出迎えてくれる彼の友達は今はいない。
玄関に出迎えたのは母親だった。「わざわざ遠いところからありがとうね」と彼女は言った。表情からは疲れが見える。電脳通信では声だけは気丈に振舞っていたように聞こえたのだ。その表情を見た雄二のショックは大きかった。
部屋に案内されてそこで見た光景は、生命維持装置に繋がれた雄二の友達の姿だった。そしてそんな危機的状況に見えるのに、傍ではゲーム端末が稼動しているという奇妙な光景がそこにあった。
「これ、外したらダメなんですよね?」
「うん、意識が戻るまで、プラグも生命維持装置も外したらダメといわれたのよ」
そう言って母親は息子の布団を少し正した。
「高坂…」
東屋と高坂は高校では一番仲が良かった悪友同士だった。
高坂は、顔はそれなりに美形だったが背が低く、成績も東屋と同じぐらいにたいした事ない。そして自分にいつもコンプレックスを持っていた。同じように上でもなく下でもない、存在感の薄い事に本人は気付かずともコンプレックスを持っていた東屋。
二人が仲良くなるのには、それほど時間は掛からなかった。
文化祭や体育祭でクラスで何かをするにも、彼らは常にハズレ者だった。高校生活はどんな人間でも青春をエンジョイできるだとか体育会系の誰かが言うものだから、ますます彼らは自分達の与えられた境遇を恨んだ。
よく二人で学校を抜け出しては街へと言ってゲームセンターでネットワークゲームをしては遊んでいた。ちょうどその頃から、LOSの試験運用が始まった。
二人はLOSにのめりこんだ。仮想空間での冒険は刺激的だったのだ。
彼らの高校生活はそれに反するように灰色だったから、むしろネットワークゲームの中の世界のほうが青春そのものだった。写真などはどこにも残らない、ただのデータとしての青春だったが、彼らが過ごしたその時間には偽りはなかった。
共に彼らなりの青春を過ごした、その相方が今、思い出の残るLOSの世界に繋がれたまま、現実の世界に戻れないでいる。だが、雄二には何をする事も出来なかった。本当に彼はただ、お見舞いに来るしか出来なかった。彼の母親と同じく、ただ高坂が眠っている姿を見て、オロオロとしたり、溜息をつくぐらいしか出来ない。
(クソッ…本当にくだらない奴だよ、お前は)
お前…それは雄二自身の事だった。
ただ、情けなかった。