15 幸せのかたち 1

暗い神殿の中を風雅の火遁の術の一つが照らしている。
その後ろをついて歩いているのは豊吉だった。
風雅達が神殿に入ったときは全員が同じフロアに居た。だがなんらかの仕掛けが作動した後、風雅達は記憶が無くなってしまったのだ。そんな状況で大勢の人数とじゃあ仲良くなりましょうというわけにはいかなかった。風雅は最初に彼に話しかけてきた豊吉と共に、とりあえずこの神殿から出ようと道を探ろうとして、今に至るのだ。
「豊吉さんと言われましたっけ?」
「うん?」
「ここを出れたら、まずどこへ行くんですか?」
風雅が何気なくそんな質問を投げかける。
「ん〜どうだろう。また途方も無く彷徨っていくのじゃないのかな」
豊吉からは記憶は殆ど消えていたが、あやふやな記憶の残滓が残っているようだった。それは風雅と共に過ごした時間でもなく、現実世界のサイバーポリスという立場でもなく、それらがミキサーでぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったオリジナルのものに近い。
「ご家族は?」
家族、というキーワードを聞いて、頭の中に何かが引っかかった。豊吉はそのキーワードが自分にとって一体何なのかを思い出そうとした。思い出そうとしても思い出せない記憶。ある人はそれを重要な何かだと言うが、豊吉はそうではなかった。
(思い出せないならたいした事じゃないんだろう)
そう思い、自分の思い出すという作業を中断しようとする。だが、それらの意識に反して強く思い出そうとする。豊吉の脳裏に走馬灯のように様々な情景が泡のように浮かんでくる。彼の妻との出会い、結婚式、子供が産まれたときの事、家族でキャンプに行った時の事、小学校の入学式の事。
(家族の事だったか…なんでまた…)
「家族はいるよ。妻と娘がね」
「会いには行かないんですか?」
(…そうだ。何で家族に会いに行こうと思わないんだ?)
「ん〜…なんでだろうね。会いたいとは思わないな」
「そうなんですか。まぁ、色々と事情はありますからね」
風雅のその「事情」という単語で再び豊吉の脳裏に自問自答の疑問が沸く。
(なんで家族と会おうと思わないんだ?)