13 バベルの遺産 9

レッカ女王は普段から彼女が持ち歩いている分厚い資料を開きながら話し始めた。それらには彼女が今までバベルの塔に関する調査した記録が書いてあるのだろう。
「今なら、その言葉の意味が判る気がする」
そして続けて言う。
「賢者バベルがこの塔に篭り始めてから、私はてっきり、彼女がオーク達魔族の襲来の対策を考えているものと思っていた。だが貴様の翻訳したバーコードという文字に書かれている内容を見て、そうではないと気付いたのだ。バベルはおそらくどこかでこの世界の真理を気付いたのだろう。そして彼女自身がこの世界を歪ませた、またはそれに加担したのも事実だろう。だが、それは彼女が望んでいた事ではない」
「彼女の意思ではない?」
「そうだ。何故ならここに貴様等を呼んだのもバベルが導いたからだ。タロットという言葉は確かにこの世界には存在しない。だがアルカナという言葉は存在している。『運命に立ち向かう者』という意味だ。彼女は自らの意思ではなく、世界を歪ませた。だが自分の行為に疑問を持っていた。貴様等に決めさせようとしているのだ。この世界の運命を」
レッカはフロアの端にあるタグを押した。どういう仕掛けなのか周囲を覆っていたタイルは透明になって、遥か下にシハー首都の全容が見えた。
「私はこの世界が本来のあるべき姿ではないと考えていた。運命に抗う事は人として自然な事なのかとバベルに聞かれたのだ。私は『そうだ』と答えた。彼女も同意見だったよ。風雅よ、私からの頼み、聞いてはくれまいか」
「このタロットの謎を解けという事か」
「そうだ。もちろん、それをしないという選択肢もある」
「俺達は試されているのか?」
「いや、違う。これはバベルと私の願いだ」