13 バベルの遺産 8

通信を終えてまだ釈然としない風雅がいた。
「どうだったのだ?」
レッカ女王が気になって話しかけてくる。
風雅は、ふと、先ほどの話を思い出していた。レッカ女王…彼女が日本人ではないという事。彼女がLOSシステムが今の状態になるずいぶん前から人望が厚い人物であった事。日本圏のネットワークゲームで外国人の活動をサポートしていたという事。LOSが今の状態になっても、つまり、現実世界の記憶を失っている状態であっても、レッカが己の役目と言わんばかりにシハーの人々の事を考えている事はまるで運命のようにも思えていたのだ。
「これはおそらく、バベルが残したメッセージだと思われる」
「この異世界の文字がか?バベルはやはり異世界から来たものなのか」
「正確には異世界の記憶を持っている人物…だな。俺や豊吉さんと同じで」
「なんと書かれているのだ?」
「『楽園に夜の帳が下りた』『世界を歪ませ、運命を止めた』『私は正義でもなく、悪でもない』『望んだ事をするだけ』『この遺産を汝に託す』『アルカナを解放せし時、閉ざされし世界は再び開かれる』『汝の歩む道が、私が望む道』…バーコードリーダーソフトで翻訳してもらった。何か思惑があって表現をぼかしているみたいだ。正直意味はあまりわからない」
「ふむ…」
「今の段階じゃなんとも言えないが、ひょっとしたらバベルが今回の事態を引き起こした張本人ではないかと思われている。現実の世界…つまり、俺達がいた世界ではバベルはハッカーという犯罪者の可能性が高い」
突然その話に割り込んできたのはフェイだった。
「そんなこと、ない…あの人はそんな人じゃないよ」
「すまないな。俺もバベルという人物に会った事は無いから、どういう人間なのかを決め付けるのは避けている。ただ、ハッカーである可能性は高い」
フェイと同じくレッカ女王もフォローする。
「私も同意見だな。貴様等がいた世界でバベルが犯罪者だったとしても、われわれの住む世界では多くの人々を助けていた。これは事実だ」
「ああ…」
「その『ハッカー』と呼ばれているものは犯罪者の事を指すのか?」
「いや、主にコンピュータ系の犯罪者をそう呼ぶ。そもそもは知識を探求するものという意味合いだったが、手に入れた知識をイタズラや犯罪に使うようになってそう呼ばれるようになった」
「知識の探求者…か…」