13 バベルの遺産 7

「どしたんすか、青井さん」
東屋はただ青井の隣で彼が操作するターミナルを見ているだけしか出来なかった。そのディスプレイには様々な資料が表示されている。何も知らない人間が見れば何か日本語が書かれている資料と思われてしまうが、東屋はその資料が何の資料なのかわかったのだ。何故なら、LOSシステムに関する機能のキーワードが随所に見られたからだ。
青井が見ていたのはLOSシステムの開発時の仕様書だった。
「これだ…」
そして一つの仕様書がディスプレイに表示された。
「『バイス・システム』LOSの中でプレーヤーが行った行動を評価して、それが条件にあえば、それなりのイベントが発生するという奴だ。ああ、クソ、設計者俺になってんじゃねーか」
「へぇ…ってか、青井さんが設計したんじゃねーの?」
「違うよ。俺じゃないけど、俺がやったことになってんだよ。ったく、忙しいからって適当に人の名前つけやがって。ま、俺がかかわったのは事実だけど、俺はプログラミングのほうだけどね」
「へぇ〜…すっげぇ」
「仮にそのクソハッカー野郎がLOSシステムを掌握してバイス・システムを使ってるとしたら、タロットの件も説明がつくだろう。よし、さっそく如月に一報いれとくか」
青井は如月にこれまでの経緯を話した。
如月は静かに聞いていたが、最後に一言、
『判りました。ただ、まだバベルが俺たちに味方したとは言い切れてないんでしょう。罠かも知れませんよ』
それにどう答えようかと青井が黙っていると、
「罠かも知れないけど、動かなきゃ何にも始まんないっしょ」
そう言ったのは東屋だった。
「ああ、そうだな」
『という事だ』
『判りました』
そのやり取りを見ていて東屋は、自分がもし今ここに居なくて家に居たとしたら、と考えた。それは選択によって世界が分岐する多重宇宙の考えをちょっと自分に当てはめただけだった。家に居る自分を想像して、そこでいったい何を得られたか考えた。
(だとしたら、俺は何も変わらねぇ)
心の中でそう呟いた。