13 バベルの遺産 3

青井は昼食として食べていたホットドッグの最後を口に放り込むと、包まれていた袋とキーボードの上にかぶせてあるラップを包んでゴミ箱に捨てた。
「タロットカードか…LOSのシステムに存在しない概念だ。思惟的な何かを感じるな。東屋、お前、これをどう思う?」
「LOSの中で何かを作り出すことはできるけど、仮にタロットのつもりで作ったにしても、なんつぅか…絵柄が無いっていうのがひっかかる。そこまで作るのならきちんと作れよっていうか。タロットって番号よりも絵柄が全てでしょ」
「うん、まぁ。そうだな。っていうと、これ作った奴は意図して作ったって事か」
「それ、どこで見つけたの?」
「聞いてみよう」
青井は再び通信ソフトのマイクへと言葉を放つ。
『如月、そのカード、どこで見つけた?』
ゼノグラシアへと続く塔で見つけました』
ゼノグラシアか…東屋、詳しいか?」
ゼノグラシア…懐かしいなぁ。確かルルティアっていう奴がクラン引っさげて国を興したのが始まりだったよ」
「そのルルティアって奴は、有名なのか?」
「有名も何も、最初にこのゲームの通信データを覗いてゲーム内の物理法則を解析したのはあいつだよ。大錬金術ルルティア。世界の秘密を知る奴さ。飛行テクノロジーを駆使して無敵の空中国家を作りやがった。自動で動くロボットでどんな国との戦争にも負けたことがない。あの頃のLOSが一番面白かったなぁ」
ルルティアってのは、今もゲームしてるのか?」
「え?マジっすか…。青井さん、マジでこのゲーム知らないのね。ゲームやってた奴なら誰でも知ってる話だよ」
「俺はハナっからゲームしたこと無いんだよ、悪かったな。で、どうなんだよ」
ルルティアはずいぶん前に辞めたよ。クラン内で分裂が起きてね。空中都市の中で戦争勃発。まぁ、そうなる前から色々とイザコザあったみたいで戦争が起きたのはルルティアが辞めた後だったかな」
「ふむ。その大錬金術ルルティアが作り出した空中大陸へと通じる塔の中で、現実の世界のタロットゲームが見つかる。か…。どうなんだろうな、錬金術師の仕業ってことか?」
「いや。ゼノグラシアへ続く塔は物資の運搬に使われただけのはずだよ。小細工なんて無い、と思う。その塔って、他には何か特徴は無いのかな?」
『だ、そうだ。何か判るか?』
『何か…といっても。この塔はシハーの首都バベルにある。それでバベルの塔と呼ばれてて、あとは…賢者バベルが塔の調査をしてたらしい』
「賢者バベル、知ってるか?」
既に如月との通信を横で聞いていた東屋は、その質問をしてもしばらく身体を固めたまま止まっていた。何かを思い出そうとしている。
「賢者バベル…バベル…どっかで聞いたことがある」