13 バベルの遺産 4

「バベル、バベル…」
念仏のようにその言葉を続ける東屋。
『ちょっと待ってろよ、如月。今東屋が考え中だからさ』
『はい、じっくり待ってますよ』
「あ!」
突然東屋が叫ぶ。
「どうした?思い出したか?」
「あ〜あ〜…ん?でもマジでそうなのかな?」
「なんだよ、何でもいいから言ってくれよ」
「いや、えと…なんていうか。LOSとは全然関係ない話なんだけど」
「関係ないのかよ!まぁ、いいから話せ」
「日本のハッカーでバベルって奴ならいたよ。たしか。記憶を書き換えたり、見たものを別の認識に強制的に変換させたりとか、電脳犯罪をやらかしてる奴だよ」
「聞いたことは…ないなぁ…」
「まぁ、通り名がいくつもあるからね。電脳の中の言語翻訳機能を狂わせるウイルスを流して、通訳から仕事を奪ったりした時についた名前がバベルだったな。ほら、バベルの塔の話の中で世界中の人の言葉がバラバラになる奴があるでしょ。アレにちなんで。そんで、そいつの出してるハックチップス(HackTips)ってのがあって、それはどの言語を使う奴でも読める様にってバーコードで書かれてる」
「ほう。なかなか面白い奴だな」
「でもまぁ、偶然かな。プレーヤーがたまたま同じ名前でアバター作っただけでしょ。なんかカッコいいからって名前まねてる奴いるじゃん。アレと同じ」
「まぁ、それでもいい。とりあえず今の話は如月につないだから」
『ちょっと待ってください』
『ん?どした?』
『いま女王が見つけたんですよ、壁の模様』
『え?女王?』
『ああ、すいません。今他のプレーヤーと一緒に塔のフロアを散策していました。女王というのはレッカ女王の事ですよ。今のシハーを統治しているプレーヤーです』
「レッカ女王!これまた懐かしいな」
と横で聞いていた東屋が言う。
「知ってる奴か?」
「知ってる知ってる。超有名だよ。それにしても…如月さんって人は有名人とパイプがあるなぁ」
「んで、誰なんだ、そのプレーヤーは」
「レッカ女王はシハーを建国した奴さ。ゼノグラシア陥落後に物資供給ラインの下に国ができた。レッカは日本人以外の国のプレーヤーを集めて協力して国を作った。色んな国のいろんな考えの奴が集まってるからさ、いつも内戦ばっかりしてたな。あの国もエキサイティングでファンの多い国だよ」
「そのレッカってのも、日本人じゃないのか?」
「ああ、確か中国人だったかな」
『えと、青井さん。さっきのバーコードの話』
『ん?ああ』
『このフロアにバーコードがあります』
『…なんだって?』