13 バベルの遺産 5

バーコードリーダーがないのでなんとも言えないのですが』
風雅はレッカ女王が案内した場所の前で紙に記述されたバーコードを見ながら外の世界と連絡を取った。
「バーコード?この文字はバーコードと呼ぶのか」
「ああ。外の世界の文字だ。正確には人が読むためのものではなくて機械が読む文字だがな。これがここにあるという事は、俺と豊吉さん以外にも外の世界の記憶を持っているものがいるという事だ」
「賢者バベルか?」
「今はまだ判らない」
『よし、如月。バーコードの文字はどういう奴だ?もしかして3次元バーコードじゃないだろうな?』
『普通のバーコードですよ。棒が並んでいる奴です』
『よし。じゃあ棒の太さは何タイプだ?』
『3タイプの奴です』
『言ってくれ。こっちでメモしてリーダーで読み取ってみる』
『はい』
風雅(如月)はバーコードを一つ一つ読んで長さを伝えた。一方で外の世界の青いはそれらをメモしていき、隣にいる東屋にバーコード文字作成ソフトに入力させる。入力した端から順に翻訳されていく。文字は16ビット。つまり日本語の文字体系だった。
次第に翻訳されていくバーコード。
東屋は興奮した顔でそれらを順に読み上げた。
「楽園に夜の帳が下りた」
「世界を歪ませ、運命を止めた」
「私は正義でもなく、悪でもない」
「望んだ事をするだけ」
「この遺産を汝に託す」
「アルカナを解放せし時、閉ざされし世界は再び開かれる」
「汝の歩む道が、私が望む道」
『如月、これで終わりか?』
『はい。判りました?』
『ああ、日本語の文章だっていう事だけはわかった。何を意味してるのかはさっぱりだ。何が言いたいんだろうねぇ、なぁ、東屋』
「アルカナか。やっぱりこれはタロットだよ」
「ほほぅ」
「大アルカナは0番から21番まである合計22枚のカードで、最初に作られたのはルネッサンス頃。大アルカナが造られる前に小アルカナがあって、それらはトランプみたいにギャンブルで使われてた。今ではタロット占いと言えば大アルカナが世界的には一番メジャーになってるね」
「ああ、今、なんつった。大アルカナ」
「大アルカナ?愚者とか吊られた男だとか、あれだよ」
「いや、合計22枚だっけ?」
「ああ、うん」
「一枚足りんな。如月が見つけたのは21枚だ」
「どっかに落ちてんじゃねーの?」
青井は再び通信ソフトのマイクへ向かって言う。
『如月、そのカードは右上に番号があったよな。それはタロット占いのカードで大…大アルカナだっけ?そう呼ばれてるみたいだ。本当なら22枚あるはずなんだが…。足りない番号はないか?』
『調べてみます』
しばらく後、
『最後のがありませんね。21番目』
「東屋、タロットの一番最後のカードって何だ?」
「えっと…確か『世界』だっけ」
「世界か…」
東屋は回転椅子を自らでぐるぐると回りながら、腕を組んで考えていた。彼が考えるときの癖なのだろう。そしてブツブツと言った。
「世界、世界…世界がない。失われた世界…」
その独り言に青井が反応する。
「まるで今の状況を暗示しているみたいだな」