14 忘却の神殿 3

神殿に入ったとたんに風雅は異変に気付いた。それはフロアを照らすために設けられた魔法で稼動する照明がついたからではない。
豊吉以外全員が一瞬だが初めてそこで会ったかのような感覚があったのだ。なぜ彼らは自分達と一緒にここにいるのだろうと。だが、豊吉を見た時に再び自分達の目的を思い出した。それが唯一の救いだった。
「豊吉さん、まずいですよ」
「ん?」
豊吉が自分と同じ感覚を共有しているのではないかと確認する必要があった。だが、そう考えている間にもどんどん周囲の仲間が仲間であるという認識が頭の中から消えていく。
「記憶が…奪われる」
「えと…なぜ私の名前をご存知なのです?」
(忘却の神殿?そういう意味だったのか…)
『青井さん、まずい事になっています』
『どうした?』
『忘却の神殿というところにいるのですが、その言葉通り、頭の中からどんどん記憶が消えていくんです。ハッキングを受けているかもしれない』
『ちょっと待ってろ、千葉さん呼んでくるから』
『急いでください…かなりのスピードで記憶が消えていってる…』
青井はサーバルームを飛び出した。何が起きたのかと東屋もゆっくりとだが後を追っていく。廊下を走り階段を駆け下りて1階の資料室へ駆け込むと、薄暗い部屋で端末に向かって何かを考えながら座っている千葉の姿がある。
「千葉さん、まずい事になってる」
「ん?」
「LOSの中で記憶が消されるような現象が起きてる」
「記憶を消される?まさか」などと言いながら歩く千葉、その後を無言で歩く青井。そしてわけもわからずとりあえず後ろをついて歩く東屋。
千葉はサーバルームの中には目もくれず、隣にある簡易ベッドがしいてある部屋に入る。そこには風雅と豊吉、それから病院から借りてきているダンパーと呼ばれる電脳の状態を観察する機械のモニターを覗き込む。
「確かに怪しげな動きをしているな…。如月君に何か呼びかけてみてくれ」
「了解」
サーバルームの中に飛び込む青井。すぐさまLOSシステム内に進入中の如月こと風雅に連絡する。
『如月!今千葉教授に解析を依頼してる。そっちの状況はどうだ?』
『…』
『如月?』
しばらく無音が続く。そして、如月からの返答があった。
『今耳元で声が…?』