12 ゲーマー 7

雄二は小山内が運転する車の後部座席に座っていた。
警察の専用車両なのだろう。生活観が無いので女性の持ち車とは思えない。タバコの香り、それから、その香りに消臭剤をつけたような独特の香りが周囲にあった。
たぶん彼女も刑事なのだろう。自分と年齢が近い。それが何かを目標にして今、行動している。雄二が今まで過ごしてきた自堕落な生活と今の彼女の雰囲気を比較して情けない気持ちになる。
(ジジイが俺を呼んだのは俺に出来ることがあるってことか。俺みたいなゲームばっかりやってきた馬鹿に出来ることってなんだよ…もしかして、ただ単に俺をからかっているだけなのか?)
「あ、あのさ…」
「ん?」
「俺に出来ることって?」
「今、ゲーム会社の人達がシステムを復旧させようと頑張っている。それでな、ゲーム開発者の人達でも実際はゲームは詳しくないんだと言われておってな。ゲームの詳しい人がいればなぁ、とわしが言われたんだよ」
「ってか…開発した人と比べたら俺なんて、ぜんぜん詳しくないんじゃ…」
「ん、いや、そうじゃない。ゲームの仕組みとかじゃなくてな、中でどんなプレーヤーがいるのかとか、実際にゲームをしてなきゃわからん事だよ」
「ああ…なるほど」
何をやればいいのかわかった。だが、不安は治まらなかった。
「俺、ぜんぜん仕事とかやったことないんだけど、使えるのかな?」
「何をいっとんじゃ。産まれたときから仕事しとるやつなんておるんか」
「いや、そうじゃなくて、例えば俺みたいな、まだどこでも働いてない奴が突然行ったら迷惑なんじゃねぇの?」
「雄二、お前は仕事をしようと思って引き受けたのか?」
「いや…そうじゃねーけど」
「誰かの為に何かをする事がたまたま『仕事』なんて呼ばれとるだけじゃないか。気持ちが大切じゃ。経験や技術なんて後でいくらでもついてくるわい。わしは警察官になっていろいろ仕事をしてきたけどの、いつも初心に帰って、警察官を何で始めたのか、いつも思い出して仕事をしてきた。そうやって思い出すたびにな、なんだかよくわからんけど、不安だとか恐れなんてのが吹き飛んでいく。わしの気持ちと比べたら経験や技術の無さなんて屁でもないとな」
「屁でも…ない?」
「ああ。お前は今からお前にしかできんことをやろうと奮い立ったんじゃないか。その気持ちに比べたら、お前の経験や技術がないことが云々と文句をたれる奴がおっても、だからなんだという気持ちになれると思うんじゃ」
隣で運転しながら聞いていた小山内が言う。
「目的意識って奴ですか」
「さぁな。警察学校でそう教えてもらったのかの?」
「いえ。企業家の書いた本の中で読みました。目的とか夢とか、そういうものを持っている人っていうのは挫折っていうのをもちろん体験するけど、目的や夢が無い人よりも挫折が小さく見えるっていう心理状況らしいですよ」
雄二は考えていた。
(そうだな。俺は俺の友達を助けたいって思っている、ただそれだけなんだ)
(それが出来ないかもしれないとか、そんな気持ちと『助けたい』って気持ちを比較するなんて、土俵違いじゃねーか。何が起きてもこの気持ちを変えようがないんじゃねーの?)
(今から助けてやるから。俺が)
(…また、昔みたいに一緒にツルもうぜ)