11 スポット・インスペクション 2

エレクトロニック・アーツ・インダストリー社玄関前に二人は訪れていた。
普段よりも静かになった玄関を抜けた。受付には誰もいない。電気もついていない。だが廊下の奥からは人の気配がしていて、明かりも漏れている。そのほうへ向かって進んでいくと、突然脇の部屋から女性が急いで飛び出してきて東屋にぶつかりそうになった。
「ああ!申し訳ございません!」の言葉の後に女性は二人を見て、「っと、すいませんが、こちらからは関係者のみ通行できます」と言って通行を遮った。どこかで見た光景だなと東屋は渋い顔をして懐から警察手帳を取り出そうとした。
「警察です」と東屋が手帳を取り出すよりも早く、小山内が女性に向かって手帳を見せた。
女性はしばらくその手帳をみて固まっていた。それから「えと、なんの御用でしょうか?」と急いでいるので用件を早めに済ませたいという雰囲気を出しながら言う。
「うちの豊川がこちらにいると思うのですが」
「豊川さん、豊川さん…。あぁ、ご案内します」
早足で廊下を突き進む。
東屋は慌しくしているEAI社社員の姿をフロアのドアごしにじっくりと見て歩いた。
案内された先はガラス張りの部屋で中では様々なコンピュータ関係の機器が稼動している。素人目にもそこがサーバルームである事は解った。その奥の部屋にベッドが二つあり、一人は小山内の同僚であるサイバーポリスの豊川、そしてもう一人は小山内と東屋とは面識の無い如月である。
「ん?…仮眠室かの?」
それを見て東屋が言った。素人目にはそう見えても仕方がない。
「仮眠室じゃないですよ。多分、今お二人はシステムに侵入している最中なんだと思います」
「ふむ」
その二人を除いてサーバルームには誰も居ない。「席を外されてるのかしら?」と小山内が見渡す。すると、背後から自動ドアが開く音が聞こえて、コーヒーを持った青井が現れた。
「ん?どちらさま?」
「ああ、」と東屋はさっき出しかけていた警察手帳を見せて「どうも、インタビューに来ましたよ」と言った。それは警察が何かしら聞きに来るであろう、と考えている人にちょっとしたジョークのつもりでいつも東屋が言うものだ。たいていはそれを聞いて良い顔はしないのだが。
「俺でよければ…話しますけど。何も出てきませんよ?」
「いやいや、いいんですよ。お決まりな事じゃて」
東屋は細い目を一掃細くして軽くお辞儀した。