能力者

15 正義 2

行き交う人々の流れの中に芝川の姿があった。 書店の隅にある週刊誌のコーナーに目が止まる。 『ヒーロー現る』 その週刊誌にある題字の一つを見て、解り切っていながらも広げる。島根の男性連続殺人の一件についてだった。 「ヒーローか…」 芝川は一度は広…

15 正義 1

電脳街の路上に行き交う人々の流れ。 まるで透明な壁でもあるかのように、電脳街の中にある全てのものが、その外の街とは異質な風貌を見せている。 多くの人はドロイドを召使いとして側に添わせて、買い物が終わるとその重い電化製品を運ぶドロイドの姿がち…

14 餌 2

真っ暗な住宅街をゆっくりと進む車内から路上を映した映像。そのカメラのレンズは一人の女性の捕らえ、車が止まる。車から数人の男が飛び出して女性の口を覆う。そのまま女性は車に抱え込まれた。そして車の中で恥辱を受ける女性の姿が延々とビデオの映像に…

14 餌 1

「警察の者ですが、太一君はいらっしゃいますか?」 堀江はドアから半分ほど玄関に身体を侵入させ、ドアが閉まらないようにしている。 「え…ええ、いますが…太一が何か?」 「少しだけ太一君にお伺いしたいことがありましてね」 「は、はい…」 太一の母親は…

13 お魚天国 3

リビングの窓ガラスが割られた。 黒い物体が部屋に飛び込んできたのだ。 「ひゃっ!」 テレビを見ていた女性はその物体に驚き、すくんだ足でガラス片から逃げた。突然の物音に、2階から柳川太一は降りてくる。 「なんだよるっせーな!…どうしたんだよ?!こ…

13 お魚天国 2

ネオンはその隙間に届いている。だが、表の地下道からは中まで見えない。完全に行き交う人々から見えないのを確認すると若者は、みのりのブラウスのボタンに手を掛けた。 「待って」 みのりがそれを制止する。 「これで私を撮って欲しいの」 みのりがバッグ…

13 お魚天国 1

車道を基本とした都市開発で、歩道が生き残る先は地下へと変わる。 地下道と地下駐車場。地下の歩行者の行き来が盛んになれば、自然と市場も地下へと移動する。歩行者用の地下道を中心に、地下の商店街が展開された。市民の多くが利用する地下スーパー、そこ…

12 ごまかし 10

「…あんたら刑事は、何に従って動いている?正義か?法律か?署長か?俺にはただ命令に従って動いている操り人形にしか見えない。法律を破って、正義を曲げてまでも、親父のスネカジリの馬鹿息子を助ける理由がどこにある?一体誰が得をするんだ?社会に迷惑…

12 ごまかし 9

「クズどもを殺しまくっている犯人を捕まえること。木村みどりを殺害した犯人を捕まえること。これらの捜査権限を湖小山署の捜査チームにも与える」 「二つの事件には関連があるということですか?」 「木村みどり殺害の犯人の目星は着いているの?」 「恋人…

12 ごまかし 8

堀江は殺人課の刑事達と話す場を机の前から会議室へと換えた。 オフィスの他の課からの視線を考慮した結果だ。 「政府からの厳重な処罰が与えられるだろうな。最悪は殺人課の人間全員に。実質、処罰なんて対した事などないんだよ。今の職を辞めさせられる程…

12 ごまかし 7

「2ヶ月程まえですが、この少年達が暴力事件を起こしている。で、私は勿論データベース内に彼らの履歴が残っていると思って、検索してみたんですが、補導履歴しか残っていない。事件を担当した派出所の警官に聞いたところ、島根県警の少年課で対処するので、…

12 ごまかし 6

オフィスのドアを勢い良く開け、側に立っていた刑事と思われる男性に話し掛ける堀江。 「少年課というのはこの事務所であってますか?」 堀江は手帳を見せ国防省の職員であることを証明する。 「ええ…ここの奥ですよ」 刑事は幾つかの机の島の最も奥を指差す…

12 ごまかし 5

「こんにちわ」 島根県警を訪れた堀江。 受付のカウンターに寄り掛かりながら話す。カウンターは堀江の体重で少しづつ後にずれる。その様子からは威圧感さえ伝わってくる。受付の女性警官は、その部外者の威圧感に負けないような気迫で言う。 「なんでしょう…

12 ごまかし 4

「金下。俺だ」 堀江はタクシーの中から携帯で話している。 「どうも根回しをしているみたいだ。狙った通りだ。でな、監査権限を貰ってくれないか?小林さん居ただろ」 「小林さん?誰っすか?」 「バカ。監査の時にお世話になった人だよ。国防省の」 「あぁ…

12 ごまかし 3

堀江は湖小山商店街の派出所に来ていた。 「あぁ、お構いなく。ちょっと気になることがあって立ち寄っただけなので…」 「ま、どぞ、こちらへ」 長椅子を勧められる堀江。そこに特に遠慮もせずどっかりと座る。安っぽい小さなテーブルを挟んで派出所の警察官…

12 ごまかし 2

「どうも匂うだろ?"大ボス"が捜査に直接こまかい指示を出している件も。そして、補導履歴の入力忘れ。な〜んか、おっかしいと思わねぇか?そんで、極め付けはこれだ」 堀江は金下から渡された印刷物の内一つをテーブルに叩き付けるように置いた。 「この男…

12 ごまかし 1

湖小山署から歩いて数分の場所にあるハンバーガーショップに堀江と金下がいた。1階はブティック。2階のハンバーガーショップは交差点を見渡せる良い位置である。 ハンバーガーを4つ、ポテトを4つ、ナゲットを4つ、山のようにトレーに乗せた金下が堀江の座る…

11 共通点 6

「いらっしゃいませ」 元気よく挨拶をするみのり。 客の男は胸の内ポケットから手帳のようなものを取り出す。一瞬、男の腰にある黒光りする銃が見える。 みのりの笑顔が消えた。 男は手帳をみのりと守山に良く見えるように提示する。手帳には国防省のマーク…

11 共通点 5

堀江は新山商店街の派出所に来ていた。金下の印刷した数枚の印刷物を警官や警備会社の人間に見せながら話している。 「こいつらは、結構この辺りじゃ有名なんですかね?」 「有名…とまでは言いませんが、何度か補導したことがありますね。浮浪者や学生に暴行…

11 共通点 4

堀江は新山商店街にいた。 コンビニエンスストアの出口に屯している男女数人に話し掛けている。 「こいつら知ってる?」 惨殺された不良達の写真数枚を見せながら尋ねる堀江。男は暫く考えてから閃いたように話し始める。 「あぁ、そいつらって暴走族?じゃ…

11 共通点 3

「最初に言っておくが、犯人は料理人じゃない。これらの調理されたモノを食った奴は居ないわけだからな。料理人と思ってた奴は、ハイセンスなジョークの感性を持っている」 神妙な雰囲気を壊そうとしているのか、余裕があるところを見せようとしているのか、…

11 共通点 2

「こいつらは…山小屋の惨殺、そして河川に落下したワゴンから血液を採取して、DNAで検索を掛けて一致した結果だ。こっから共通点を洗い出す」 白板に向かい捜査官を前に説明する堀江。 汗をかき、うちわで必死に扇ぐ金下を除いて、その場の雰囲気は神妙だ。 …

11 共通点 1

湖小山署の2階、オフィスの片隅に端末室と呼ばれる小部屋が用意されている。部外者向けのコンピュータ入力端末が置いてある部屋である。その小部屋から図体の大きな男が出入りする。 金下である。 オフィスに1台だけあるプリンタに全ての端末からの印刷物が…

10 私服の軍人 3

堀江と金下の2人は湖小山署に戻っていた。 車を降り玄関に差し掛かると、女性が話し掛けてくる。 「よぉ」 堀江の知り合いだろうか、女性は男のような挨拶で堀江を迎える。堀江はそれに答える。金下は女性が堀江の知り合いだと察知して軽く会釈する。 「よっ…

10 私服の軍人 2

堀江と金下、そして湖小山警察の刑事を乗せた車は山道を下っていた。 「帰りは別の道行ってみよう。同じじゃ詰まらないしな」 堀江の提案でもう一本の山道を下り湖小山市を目指す。 「緑が気持ちいいっスね〜堀江さん」 「だな」 緑色の樹木のトンネルを潜る…

10 私服の軍人 1

「これで本当に全部なのか?」 男は遺体収容用の袋手前に置かれた遺体の断片を眺めながら言った。 その男は軍人だがそれを外見から語るものは無い。唯一彼が軍の関係者だと物語るのは軍用の携帯を腰に吊るしていることだけだろうか。 軍服を着ない軍人は特命…

9 報復者 9

みのりによって切断された男の足はアクセルを踏んだままの状態でその場所に固定された。ホースから吹き出るように血が吹き出していく。 「うわぁぁぁぁ!」 その両足を見ながら叫ぶ男。男の足は無情にもアクセルの重石になりどんどん車のスピードは上がる。 …

9 報復者 8

運転手の男は無我夢中で車を走らせた。 だがふと、後部座席から何も聞こえないことに気付いた。叫び声も飛び散る肉片が出すピチャピチャという不気味な音も。不気味なほど静まり返る車内。 チラと後を覗く。 そこには誰も居なかった。正確に言えば、そこに座…

9 報復者 7

「ヒッ!」 男は声を上げる。その白いものを見つめるがそれは馴染み深い変哲も無いものだった。どこにでもある袋。スーパーマーケットの袋だ。「暮らしのパートナー」という宣伝文句が袋の表面に印字されている。 「な、なんだ…なんなんだ?」 男はゆっくり…

9 報復者 6

車は険しい山道を下っていった。 後部座席の男は窓から山道を見る。 「大丈夫、追い掛けて来てない。大丈夫だ」 追い掛けて来ているかどうかは透明なモノだから解るはずも無い。だがそう言う事で少しでも仲間の気持ち、自分の気持ちが和らぐことを望んでいる…