14 餌 1

「警察の者ですが、太一君はいらっしゃいますか?」
堀江はドアから半分ほど玄関に身体を侵入させ、ドアが閉まらないようにしている。
「え…ええ、いますが…太一が何か?」
「少しだけ太一君にお伺いしたいことがありましてね」
「は、はい…」
太一の母親は玄関から入って直ぐの階段から2階に向かって言う。
「太一。警察の方よ」
太一は2階から顔を覗かせた。
堀江と金下を見た太一は顔の表情を曇らせる。
「あの、ここではなんですから、どうぞお上がりください」
「出来れば太一君の部屋で3人で話がしたいのですが、宜しいですか?」
「は、はぁ…」
堀江と金下は階段の上から覗く太一の顔を睨むと、ゆっくりと階段を上がった。階段を上がりきると、太一とすれ違う程に近付く。二人は太一の母親には聞こえない声で話す。
「んだよ、親父の許可は得てんのかよ?」
「何でお前と話すのに親の許可がいるんだ?お前はお嬢様か?」
堀江は袖を掴み、金下は肩に手を置いて太一を彼の部屋に導いた。
金下は部屋の扉を閉めるのを確認すると、太一は第1声を大声で言う。
「だから、捜査すんのに親父の許可は得てるのかっつてんだよ!」
「金下。このガキ黙らせろ」
「ッス」
金下は太一の襟を掴むと足を掃った。太一の身体はバランスを崩してひっくり返る。その上に金下の巨体が圧し掛かった
「ってぇ!何すんだコラッ!」
両腕を太一の顎に回すと締め上げた。
金下の太い両腕に顎を塞がれ、満足に叫ぶ事も出来ない太一を余所に、堀江は太一の部屋を物色し始めた。
「ほほぉ〜ビデオディスクか。どれどれ…」
堀江はデッキの下に並べられているビデオディスクを一つ一つ手に取り、
タイトルやディスクのプレビュー表示を見ている。
「女子高生…強姦…盗撮。随分と悪趣味なビデオだな」
順にビデオディスクを確認していく堀江の手が止まる。止まる場所にはタイトルに手書きの日付が入ったビデオディスクがある。プレビューには家庭用ビデオを意味するマークだけが入っている。
「…これは何かな?」
「ダチのだよ!勝手に触るんじゃねぇよ!」
「このビデオは家庭用ビデオカメラで撮影されたもののようだが、何が録画されているんだ?」
「お前等には関係無いだろ!」
「言い忘れていたが、実は俺達二人は長谷川良子と木村みどりの二人の殺人事件の捜査をしている。その捜査線上に太一君。君の名前が上がったんだよ。で、このビデオディスクには俺たちに見られたらまずいものでも録画されているのか?」
「…いや」
「じゃあ俺達が見ても何も問題無い訳だろ?さ〜て鑑賞するか。昔は部活さぼって部室でよく仲間と見てたもんだなぁ〜?金下」
「こいつが見てるような鬼畜なビデオは見ないっすよ!」
堀江はビデオをデッキに入れると再生ボタンを押した。