14 餌 2

真っ暗な住宅街をゆっくりと進む車内から路上を映した映像。そのカメラのレンズは一人の女性の捕らえ、車が止まる。車から数人の男が飛び出して女性の口を覆う。そのまま女性は車に抱え込まれた。そして車の中で恥辱を受ける女性の姿が延々とビデオの映像には収められている。数人の男達に指示を与える太一の姿もビデオに収められていた。
「何なんだこれは?」
堀江が言う。太一は頭を掻きながら言う。
「ダチがこういうビデオ作るのが趣味でさ、ほんとに女をレイプしてるわけじゃねぇよ?ビデオの出演してるだけなんだ」
「じゃあ確認の為に出演してるこの女に連絡取ってもいいんだよな?」
「…いや、それは…」
次のビデオディスクをデッキに差し込む金下。同じ内容の映像だ。女性にゆっくりと近付く車。降りる数人の男。そして女性を車へと連れ込む。
そのビデオが違う点はビデオに映る男性全員の顔の部分に修正が加えられ、誰なのか解らないようにされている点だ。声だけは先程のビデオと同じで修正も加えられていない。
「これをネタに女を脅してレイプしてたんだな?」
「い、いや…」
「なぁ、証言が嘘だと解れば罪が重くなるのは知っているよな?」
「…」
「さっきのビデオは修正する前のものだな。ネットに映像が流れて、お前等の顔が映ってたら捕まるもんなぁ?」
金下は次から次へとビデオディスクを再生し続けた。
延々と同じ様な映像が流れる。それらは鑑賞を目的に作られたものとは明らかに異なる。一つ一つを証拠として記録しているようなものだった。ある女性は免許書が映像に収められていた。ある女性は市民IDが記載されたカードが映像に収められている。
「ヘドが出そうだぜ。鬼畜の所業だな」
あるビデオの再生が始まった時、金下のデッキを操作する手が止まった。
「あ!ここに映っている女、殺された木村みどりじゃないっすかね?」
「ん?何でここに殺された木村みどりが映っているんだ?金下、日付はいつだ?」
金下はデッキを幾つか操作するとビデオを録画した日付が画面に表示される。
「木村みどりが死亡したと推測される日と同じっすね」
堀江はゆっくりと太一の方に振り向く。
「どうなってんだよ?なぁ?」
「…それは」
「それは…、なんだ?また女々しく言い分けすんのか?言い訳するって事は自分の罪を認めていないって事だな。レイプしてもいい、殺してもいいって思ってる事だ」
「堀江さん!」
ビデオを確認していた金下が突然叫ぶ。
そして堀江の肩を揺さぶる。
「んだよ!っせーな!今説教してんのによ!」
「堀江さん!これ見てくださいよ!」
「…」
「…」
ビデオに映った映像に金下も堀江も言葉をなくした。
顔の皮が剥がされた男が薄ら笑いを浮かべているのだ。
暗闇の中で鼻の骨が白く輝いていた。男が笑う度に、束になっている頬の筋肉が「ピクッピクッ」と動いている。堀江と金下は太一の方に振り向いた。
「お前…」
「俺じゃない!これは俺のダチの一人なんだ!」
『次はお前だ』
絞り出すような声がスピーカーから流れる。
みのりが処刑した男の最期の一言。
それが男の意思なのか、みのりがそうさせたのか、ビデオの映像からは判らない。
「…このビデオで男が言っている"次はお前だ"の次ってのはお前の事か?」
「このビデオが俺の家に投げ込まれて…それで」
堀江は太一の襟を引っ掴んで叫ぶ。
「だから、ビデオはお前が撮ったもんだろうが!」
「俺のダチがビデオを撮って編集してんだよ!
この…顔を切り刻まれてる男が、俺のダチなんだ」
「…」
「つまり…これはお前に対する挑戦状って事か」
「…」
堀江と金下は太一の家を離れ、車に向かっていた。
「堀江さん。あいつ、とっ捕まえないんすか?」
「見張りを付けて暫く泳がせよう。あいつは雑魚だから逃げ切れやしない。それに、いいタイミングで挑戦状突き付けられてるのを確認できたしな。今ならまだ準備も間に合う。もう一人のターゲットは必ず奴の所に来る」
「そこで二人ともお縄にすればいいんすね」
「二人っつうか、一人と1体かね」
車を発進させる金下。すぐに車の窓を開けた。
「しっかしそれにしても、反吐が出るほどクソ野郎っすね。奴は。性根の腐った人間独特の匂いがプンプンしたっすよ。マジで」
堀江は窓から腕を出して風の感触を確かめながら言う。
「まぁ匂いがキツイ餌ほど喰い付きはいいからな」
「それもそうっすね」