13 お魚天国 3

リビングの窓ガラスが割られた。
黒い物体が部屋に飛び込んできたのだ。
「ひゃっ!」
テレビを見ていた女性はその物体に驚き、すくんだ足でガラス片から逃げた。突然の物音に、2階から柳川太一は降りてくる。
「なんだよるっせーな!…どうしたんだよ?!これ!」
ガラスの散らばるリビング。
太一はその中から黒い見なれない袋を見つける。
「…んだよこれ!?」
袋を開ける太一。中はビデオディスクが数枚入った小箱だ。その小箱から一枚を抜き出す。太一にはそのラベルには見覚えがある。太一の命令でレイプの光景を記録したものだ。日付と下品な落書きが書かれているラベル。
「たっちゃん…なんなのそれ?」
太一の母親が聞く。
「知らねーよ。誰かの悪戯だろ。暴力団とかのさ。俺が処分しとくよ」
太一は散らばるガラスに目もくれずに、ビデオディスクを集めると、それを持ち2階の彼の部屋に戻った。
(なんでこれがここに在るんだ?)
震える手でディスク一枚一枚のラベルを確認する。その一つに見覚えの無いラベルがある。手書きではない字。
『太一君へ』
「ザケやがって!」
太一はその見覚えの無いディスクをデッキに挿入すると再生させた。場所はどこかの暗い路地。ネオンが時折ちらちらと壁に反射しているのが解る。カメラの視点はゆっくりと移動する。画面の中心に男が映る。
太一とつるんでレイプをしていた男だ。時折、自分の学校の男子を呼んで来ては、金を取り、太一の『獲物』を抱かせた事もある。
その男が奇妙な呼吸をしながらカメラに向かって何かを言っている。
呼吸が笛を吹くように、漏れているのだ。ヒューヒューという漏れる音が常に聞こえる。何を言っているのか聞こえない。何かを繰り返し言っている。
太一はデッキのボリュームを上げる。
「…は…ば…だ」
まだ聞こえない。さらにボリュームを上げる。
「つ…ま…だ」
太一はボリュームを上げながら、その友達が何を言っているのか聞き取ろうと、画面に顔を近付けて口の動きを見る。その時、画面に映る男の顔の皮がズルリと剥がれた。
顔だけではない。よく見ると身体全体の肉が剥がれている。
特に足は3枚に切られた肉片がまるで刺身のように足の表面に添えておいてある。あたかも人間の身体の肉を使い『生き造り』をしているようだ。
顔の皮が剥がれ、骨が剥き出しになった男は、最後の声を絞り出した。
「次はお前の番だ」
男を笑みを見せると、首から血を垂らしながら絶命した。
太一は震える手でデッキの停止ボタンを押した。
唾を思いっきり飲み込む。
「ナメた真似してくれんじゃねぇか…」
震える声で言う太一。
彼の心境を逆撫でするように、テレビのバラエティ番組から笑い声が部屋に響いていた。