13 お魚天国 2

ネオンはその隙間に届いている。だが、表の地下道からは中まで見えない。完全に行き交う人々から見えないのを確認すると若者は、みのりのブラウスのボタンに手を掛けた。
「待って」
みのりがそれを制止する。
「これで私を撮って欲しいの」
みのりがバッグの中から取り出したのはビデオカメラだった。
「ふふ、そういう趣味なのか?」
若者はそのビデオカメラを掲げるとみのりを映そうとする。だが、カメラは録画のスイッチが入らない。
「『ディスクが一杯です』って出てるぞ。『ブランクディスクを入れてください』って」
「おかしいなぁ。ディスクはもうないよ」
「さてさて、君は今までどういうセックスをしてきたのかな?」
男はビデオのディスクの先頭トラックから再生した。
ビデオに女性が映る。
だがそれはみのりでは無い。
顔には打撲による傷がいくつもある。
ぐったりとして動かない。その人形の様になっている女性に、何人もの男が代わる代わる覆い被さり、腰を叩きつける。突き上げられる女性の頬から涙が一筋流れる。男女の性器が交わる音が聞こえる。
「おいおい、こんなに涎垂らして、まだ物足りないみたいだな」
男達の1人が女性の性器を指差して卑劣な言葉をかけている。
女性は木村みどりだった。
「こ、これは、どこでこれを?!」
青冷めた男はみのりを見る。
「…あなたのお友達が持っていたのよ。木村みどり、あなた達が犯して殺した女よ」
「ち、違う。俺は殺していない!殺ったのは柳川だ!」
言い訳をする男を余所に、みのりはビデオカメラを手に取り、幾つかのボタンを押している。ホログラムは別の映像に切り替わっている。
「あなたのお友達は、木村みどりを殺した後、ある『姿』に変わったの。彼は今までの悪い事を反省する為、その反省を自ら体現したの…」
みのりがカメラのスイッチを押す。
ホログラムにはサイコロステーキ状にぶつ切りになったカメラマン役の男の姿が現れた。
「彼はぶつ切りに、そして彼らはミンチに」
みのりがカメラのスイッチを押す。
ホログラムにはミンチ状にバラバラになった肉片が映る。もはや誰が誰なのか解らない。
「そして彼は、3枚に下ろされた」
みのりがカメラのスイッチを押す。エレベーターの前に3枚に切断された人間の肉がある。
「そして次はあなたの番。これよ」
みのりは男が先ほどスーパーで買った「まぐろの刺身(半額)」を取り出して男に見せた。
「う、わ…!」
男が叫ぼうとする。その瞬間、みのりの拳が男のみぞおちに叩き込まれた。叩き込まれたみのりの拳が衝撃を作り出し、男の肺から空気を押し出した。
(うわぁぁぁぁぁ!)
男は叫んだ『つもり』だった。