15 正義 2

行き交う人々の流れの中に芝川の姿があった。
書店の隅にある週刊誌のコーナーに目が止まる。
『ヒーロー現る』
その週刊誌にある題字の一つを見て、解り切っていながらも広げる。島根の男性連続殺人の一件についてだった。
「ヒーローか…」
芝川は一度は広げた週刊誌をすぐに閉じた。みのりと最後に会った日の事が脳裏に浮かぶ。
芝川の前で崩れるように泣くみのり。
『正義が何なのか知りたい』
その一言に芝川は心を揺さぶられた。
復讐戦争とも呼ばれた日朝戦争。大量に戦場に送られたドロイドは目的の為なら手段は選ばなかった。朝鮮半島最南端の都市、ギョンの中央に聳え立つ発電施設が日本軍のエアクルーザーからの長距離砲を防ぐバリアを生成していることから、陸軍の最初のターゲットは発電施設だった。
市外で朝鮮軍の激しい抵抗を突破したドロイドは、発電施設へ向けて突き進んでいた。
そして市民の抵抗を受けた。
朝鮮政府は軍、そして市民にバリア生成施設を防衛するよう伝えていた。施設が破壊されれば、多くの都市が長距離砲の攻撃を避けられない。死守することが、国を守る事だと教えられていた。
ドロイドは市民を敵と見なし、虐殺した。
路上に散乱する手足、漂う腐臭。重火器を装備しない日本軍のドロイドは返り血や肉で赤黒く変色し、戦闘が終了し機体を洗い流しても暫くの間、死臭を漂わせていた。
「正義が何なのか…って?俺も解んないよ」
芝川の手も、夢も、すべてが血塗られていた。
(吉村…お前はいいのか?本当に…それでいいのか?)