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「最初に言っておくが、犯人は料理人じゃない。これらの調理されたモノを食った奴は居ないわけだからな。料理人と思ってた奴は、ハイセンスなジョークの感性を持っている」
神妙な雰囲気を壊そうとしているのか、余裕があるところを見せようとしているのか、堀江の話し方には場数を踏んだ印象さえあった。彼のブラックジョークに声を出して笑う金下。1人だけ緊張とは無縁だった。
「殺され方はどうあれ、こいつらは人から恨みを買う可能性は十二分にあった。だが殺され方だけ見れば、単に恨みを持っただけで出来る犯行ではない。この写真を見ただけで、大抵の人間は目を背け、ゲロを吐きそうになる。当事者なら、恐怖に震え、苦痛に顔を歪めるだろうな。殺すこと、もしくは恐怖を与えることを楽しんでいるようにすら思える。で、ここまで話して言うのもなんだが、俺は殺人捜査の経験は殆ど無い。その手の専門家に聞くんだが…」
堀江は捜査官の1人を指し、言う。
「サイコロステーキになった奴も、ハンバーグになった奴も、検死の結果、『殺された後』で切断されたんじゃないことが判っている。こいつらは生きたまま切り刻まれた。特にサイコロステーキの方は、10センチ均等に切断されている。モノサシで計ったように正確にな。恐怖で逃げたり、叫んだり、そういう被害者を前に、こんな風に正確に切り刻むことが可能なのか?」
「不可能…ですね」
捜査官は答えた。
「そう、不可能だ。『人間には』な…冷静だ。感情が無いみたいに冷静で、コンピュータのような正確さ。痛みが脳に伝わり切らないうちに切断を完了している。警察の方々には俺の意見は極論かも知れない。犯人は人間ではないと思われる。俺が湖小山署に来ている理由にも返るんだが…」
「…つまり、ドロイドということですか?」
腕組をした捜査官の1人は堀江に返す。
「そうだ」
堀江は静かに答えた。
「犯人は人間、そして、そいつにコントロールされるドロイドだ。高性能なドロイドのテスト運転ってところか。ターゲットをこの人間のクズどもに搾っているところから見れば、一種の罪悪感を消す為だと思える。こいつらなら殺してもいいと思っている。恨みを持っているなら尚更都合がいい。殺す場所にもテストに適した環境を考えているようだ。人気の居ない山小屋、走行する車内、人気の多い大通り側のマンション」
「ちょっと引っ掛かるんですが…」
捜査官の1人が言う。
「ん?何?」
「マンションで殺されたケースは、目撃者が1人も居ないというのが気になりますね」
「そうだな、見えなかっただけなのかも知れない。日朝戦争、終戦間際にはステルス機能を搭載した戦闘機も開発されていた。光を屈折させる特殊なバリアで周辺の物体を透明にする。ドロイドに同様の機能が搭載されていた可能性はゼロでもない」
「見えないなら…厄介ですね」