11 共通点 1

湖小山署の2階、オフィスの片隅に端末室と呼ばれる小部屋が用意されている。部外者向けのコンピュータ入力端末が置いてある部屋である。その小部屋から図体の大きな男が出入りする。
金下である。
オフィスに1台だけあるプリンタに全ての端末からの印刷物が出力される。その唯一のプリンタと小部屋の間を行き来する。それが今の彼の仕事だ。
「行ったぞ、行った!」
小部屋の中からは堀江の声が聞こえる。
彼が「行った」と言うのはデータがプリンタに向けて送信されたと言うことだろう。その度に駆け足で金下がプリンタに駆け寄る。
まとめて印刷し一度取りに行けばいいものだが、堀江や金下にとっては素早く印刷物を取りに行く事以外は考えられないのである。
金下は息を切らして小部屋に戻る。
「行った!また行ったぞ!」
「っス」金下はプリンタに向かいダッシュする。
素早く動く巨体に体当たりをされてはたまらないと、オフィスの他の人間はプリンタに近付く足を止める。
プリンタには既に出力された印刷物がある。金下はそれを乱暴に掴み取り、また小部屋に向かいダッシュする。彼の持つ印刷物には20代男性の顔写真と、簡単なプロフィールが書かれてある。小部屋の中の堀江の持つ印刷物も同様のものだ。
「これで全部か」
トンッと机に落とし印刷物を揃える。一枚一枚を丁寧に捲り一通り目を通した後、白板に貼り付けていく。
「刑事さんらを呼んで来てくれ」
息を切らしながら金下が頷く。そして素早く小部屋から出る。
決して広くない小部屋に刑事達が集まる。小屋、そして河原での惨殺を調査する殺人課の刑事達だ。椅子が足りずに小部屋の外からも覗く者もいる。それでも堀江は会議室で集会はしない。
単純に面倒臭いだけなのだが、それが彼のやり方なのだ。