10 私服の軍人 2

堀江と金下、そして湖小山警察の刑事を乗せた車は山道を下っていた。
「帰りは別の道行ってみよう。同じじゃ詰まらないしな」
堀江の提案でもう一本の山道を下り湖小山市を目指す。
「緑が気持ちいいっスね〜堀江さん」
「だな」
緑色の樹木のトンネルを潜るように進む車から見える景色を楽しんでいる。冬といえば茶色の枯れ木だが、杉の木の多い湖小山市の山道はその季節でも夏と同じような緑だ。鉄橋に差し掛かる手前、堀江の目はガードレールに向けられる。
「事故でもあったのか」
堀江の視線はガードレールに深くえぐるように残る傷に向けられている。
それを察したか刑事は堀江に言う。
「鉄橋から車が転落する事故があったんですよ」
「おいおい…なんでそれを早く言わないんだよ。車止めてくれ」
「あ、はい。今回のとは別件らしいんで、事故として扱ってるって話ですが…」
「近い日に事件と事故があったら、なんかオカシイと思わんのか?」
堀江と金下、刑事の3人は車を降りると鉄橋側の林道から河川へと降りる道を下る。
車から見た杉の緑は林道に入ると消え、代わりに降り積もった枯葉が冬であることを感じさせる。カサカサという音と弾力のある地面を踏み締める革靴。暫く歩くと河川に辿り着いた。
自然とアンマッチな格好の一団が河川の焼け焦げた、同様に自然とアンマッチな車の周りに集まっている。
「あ、ども」
堀江と一緒に歩いて来た刑事は軽くその一団に会釈する。
「あら、森下さん。どしたの?」
「山小屋の事件と関連があるんじゃないかって事で。何か不信な点はありましたか?」
同じ署の刑事同士話す間に、堀江と金下は車を調べ始めた。
「傷を探せ。エグイ切断面があるはずだ」
「堀江さん。この下」
堀江は金下が指差す車の下を見る。
「これってアームブレードの傷じゃないスかね?」
「こりゃ違う。破裂して爆発した後だ。金下、お前死体を調べて来い」
金下は返事をするわけでもなく、彼なりに急いで刑事の元に行く。
「どこにもねぇなぁ…」
後部座席まで一通り調べ終えた堀江はその車の中で大きく深呼吸した。
「あぁ?」
雲の隙間から太陽が顔を覗かせると同時に車内に光が差し込む。だが意外な場所からも光が差し込むのが判った。堀江が天井を見上げると、そこには大きく開かれた跡がある。
「あった、あった」
堀江は車の天井から顔を覗かせると、カンズメの蓋を開けたような天井の切断面をマジマジと見つめる。
「堀江さん。死体はもう鑑識に回してるって」
金下が息を切らせて駆け寄る。
「金下、見つけたぞ。切断面」
「事件っスか?」
「あぁ、同一犯だ」