9 報復者 8

運転手の男は無我夢中で車を走らせた。
だがふと、後部座席から何も聞こえないことに気付いた。叫び声も飛び散る肉片が出すピチャピチャという不気味な音も。不気味なほど静まり返る車内。
チラと後を覗く。
そこには誰も居なかった。正確に言えば、そこに座っていたであろう男達の肉片だけが無造作に転がっていた。
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
さらにアクセルを踏む。
心のどこかでは、もう助からないことなど解っている。だが早く街につけば助かるという考えが思考の大半を占めていた。そうでもなければアクセルを踏む事やハンドルを切ることに意味は無いのである。
助手席がゆっくりと沈む。
そこには誰かがいる。誰かの形に、助手席が少し沈んでいる。
「た、助けてください」
運転しながら声を振り絞って必死に命乞いをする男。
その声に空間からの声は答える。
「木村みどりは助けを求めたと思う。あんたは助けたの?」
「木村みどり?」
男は震える声で言う。
「あんたとあんたの仲間が犯して殺した高校生よ」
そういうと透明なモノはゆっくりと姿を現した。そこにはステルススーツに身を包んだみのりの姿がある。
「お、おまえはあのゲーセンの店員?」
「本当のことを言えば、あんたの命までは私は奪わない。答えは判っているの。あんたが白状するかどうか。さあ選択して」
「お、俺が殺した。俺と仲間が皆して殺したんだ。許してくれ!」
男は泣きながらみのりの問いに答えた。
「そう、やっぱりね。じゃあ約束通り…」
「自首する!助けてくれ!」
「『命までは』奪わない」
そういうとみのりはレーザーブレードで男の両足を切り裂いた。