9 報復者 7

「ヒッ!」
男は声を上げる。その白いものを見つめるがそれは馴染み深い変哲も無いものだった。どこにでもある袋。スーパーマーケットの袋だ。「暮らしのパートナー」という宣伝文句が袋の表面に印字されている。
「な、なんだ…なんなんだ?」
男はゆっくりとその袋の口を広げる。
その中には赤黒い何かが入っていた。
肉片だった。
カメラマン役の男の顔の肉片が入っていた。
見覚えのある男の顔が不自然な場所、買い物袋に入っている。袋を持つ男の手が震え、その震えに合わせてカメラマン役の男の目玉が動く。まるで顔の肉片の持ち主がまだ生きているかのように。
「!…っ」
手に袋を持った男が叫び声を上げる暇などなかった。
見えない「何か」は車の中にいる。そして男の首を切った。だが完全に首は切れず、半分だけが繋がった状態になった。透明な「何か」はそれを無理に引き剥がそうとする。
「グガカアァァァアガガカカァァァ!」
その切れかかった首の持ち主から人間ではないような酷い叫び声が聞こえる。おそらく声帯も切れかかっている。そこから無理に発せられる声なのだ。叫び声と血飛沫が上がり、肉片が飛び散る。
「ギャァァァァァァァァァァァ!」
血飛沫から避けようと周りの男達は叫びながら狭い車内を逃げ廻る。
「もうすぐだ!もうすぐ街に付く!」
車のアクセルを強く踏み込み、曲がりくねる山道を走る。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら。
「もうすぐなんだ…もうすぐ街に…」
その助手席には飛び散った肉片や血が転がり込んでくる。ルームミラーは血塗れになり、すでに使いものにならなくなっていた。
後部座席で何が行われているのかは容易に想像できる。だが彼の脳は生存本能なのか、それとも脳がイカレてしまうのを防ごうとしているのか、その想像を否定して自分だけは必ず助かるという未来を想像していた。