11 共通点 6

「いらっしゃいませ」
元気よく挨拶をするみのり。
客の男は胸の内ポケットから手帳のようなものを取り出す。一瞬、男の腰にある黒光りする銃が見える。
みのりの笑顔が消えた。
男は手帳をみのりと守山に良く見えるように提示する。手帳には国防省のマークがあった。客の男は堀江だった。
(警察…?)
みのりは不安と焦りで胸の鼓動が高くなるのがわかった。
(もうこんなところまで嗅ぎ付けて来るなんて…)
「ちょっと伺いたい事が幾つかありまして」
堀江はそう言うとバッグの中から印刷物を取り出す。男の写真とプロフィールが幾つかある、金下が印刷したものだ。
「こいつ等、ご存知ですか?」
(あぁ…違うんだ)
内心、冷や汗を拭った。
みのりと守山は、その数枚の印刷物に一通り目を通す。
「ええ、よく見かけます」
「この人達は…前に店の表で暴れてた人達ですよ」
守山はその印刷物の幾つかを指差して言う。
「…暴れてたというのは…?怒鳴ったり、物を壊したりとか?」
「いいえ…ホームレスの人達を殴ったり蹴ったり。それで僕と、彼女が止めに入ったんですが、僕も彼女も殴られちゃって」
「例えば、こいつとか?」
堀江が見せた写真は柳川のものだ。
「はい。そうですね」
「んんっ〜?」
堀江は柳川の写真と犯罪履歴の欄を見ている。
みのりと守山は顔を見合わせた。
「あの、どうかしたんですか?」
みのりが聞く。
「変だな…?暴行したというなら、傷害罪のはずだが…ほんとうに、この男ですよね?」
「え、ええ…」
みのりと守山はもう一度柳川の写真を見る。
「補導はされているが…傷害なんてどこにも見当たらない。いつ頃、こいつが暴れたのか覚えています?」
「あ、ちょっと待ってください」
守山はカウンターの引出しからファイルを取り出して見ている。
「店長が巡回店にするお願いを提出した日が、不良達が暴れていた日なんですよ。あ、あった…この日ですよ」
守山が指差した個所を堀江が一度見ると、
そのファイルを手に取ってもう一度同じ個所を見る。
「んん〜?おかしいな…その日には補導された記録すらない」
堀江はファイルと数枚の印刷物を見比べながら言う。
「私と守山さんが止めに入ったとき、警察も来てくれていて、その人達は逃げたんですよ。だから、別の日に補導されているのかも」
みのりが言う。
「いえいえ、その日以降に補導の記録は無いし住所も割れているわけですからね。傷害ともなれば犯罪ですから。既に逮捕されていなければならないはず。まぁ後は私のほうで調べます。今日はご協力ありがとうございました」
堀江はそう言うと店を後にした。
店を出て直ぐに立ち止まり、印刷物に目を通す。
「随分根が深い。腐った根が深い所まで侵食しているな…」