5 ロボットオタク 6

吉村秀人こと菅原みのりとの電話が切れて小一時間程度経ってカフェの入り口の扉にかかった鐘がカランと安っぽい音を立ててなると、コツ、コツというパンプスが硬い地面と当たる音が聞こえる。
その音は芝川の隣まで来るとみのりが姿を現した。
「こんにちわ」
「あ、もしかして、吉村君?」
「うん。ごらんの通りだよ」
そういうとみのりは腕を広げ自分の身体を見た。芝川はみのりの身体を足から順に一通り眺めると溜息をついた。
「女性化っていうから、単純に性別が変わるってことかと思っていたよ。顔も違うし体格だって…あの肉はどこへいったの?」
冗談交じりにみのりに聞く芝川。
「腐って削れ落ちたよ。中からこの身体が出てきた」
「冗談…じゃないの?本当に腐って削れ落ちたの?」
「本当に」
みのりは笑って答える。
その笑顔からは吉村秀人の面影は何一つ残っていない。類似点を挙げるならメガネだけだろうか。
それから二人は語り合った。
一つ一つの話を重ねるごとに、目の前に居る女性が吉村秀人である確信が強くなる。大学時代の話。将来を夢を語った過去の話。仕事の話。そして戦争の話。戦争の話をしたところで、芝川は持っていたコーヒーのカップを机において暫く窓の外を見ていた。
それから一言、
「つまんないことさ」
と言った。