7 霧雨の炎 5

「おい、早く代われよ!俺の番だぜ」
みのりの下腹部から背中を伝い頭まで激痛が襲った。怒りや悲しみ恐怖が入り混じった感情が思考を覆い尽くす。
男が覆い被さっていた。
男が腰を叩きつけるように上下する度に痛みが身体を通り抜ける。手は男の身体を少しでも自分からどけようと宙を舞う。男の動きにつられて糸の切れた人形のように動いている。
「ちっ!」
男はその手が邪魔になったのか押さえつけると次の瞬間視界が暗くなった。顔全体に痛みが襲った。閃光が頭の中に走る。殴りつけられていた。
「やっぱ処女は最高に気持ち良いな。これだけ廻してもまだシマるぜ」
気が付けばみのりはドラム缶から手を離していた。
(今のは…?!)
それは単純な映像ではなかった。
感情や感覚、そして映像がすべてあわさった「何か」
誰のものなのかは判った。
(みどりさんがいる)
震える手で再度ドラム缶に触れようとするみのり。
(判る!誰が酷いことをしたのか判る。あなたを殺したのは誰なの?)
「まずいな。コイツ、サツにチクるって言ってる」
「…いいさ、人を殺す度胸も無いアマちゃんって思われてるなら、思い知らせてやればいい。俺達はお前が思ってるほどアマちゃんじゃないぜ」
その声、顔、すべてに覚えがある。
高校時代みのりを苛め続けた男、柳川太一だった。柳川をリーダーとして金魚の糞のようについて周った連中、そして高校時代の記憶には無いが、みのりの勤めるゲームセンターに出入りしていた連中も一緒だった。
身体に力が入らない。
みのりの身体を男二人が抱え込むと、そのまま深い穴に突き落とされた。まるで井戸の中から外を眺めている感覚。
ドラム缶だった。
そして鼻を突くような臭いが充満した。何かの液体が身体に染み込んでいく。それらはすぐに激痛に変わった。液体が炎に変ったのだ。
暗いドラム缶の中は炎に満たされた。