7 霧雨の炎 4

「ドラム缶で焼かれた女子高生の死体」
木村みどり殺害のニュースは日本中に知れ渡った。
事件がショッキングであればあるほどマスコミと国民は騒ぐ。そして瞬く間に議会に影響を及ぼした。程なくして政府は全力で事件の解決に力を注ぐ事を決議した。
日本中に注目された島根県警殺人課だが捜査は既に難航していた。
既に1ヶ月前に似た手口で女性と思われる人間が一人殺害されていたが、完全に炭化した死体は身元が判らず、現場の証拠も足跡程度しか残されていなかった。今回のケースでは身元が唯一わかったものの相変わらず証拠は残されていない。
本来なら何人もの警察官が証拠を集める目的で集まっている筈の湖小山港工場跡。そこには立ち入り禁止と明記されたテープだけが貼ってある。
みのりは自転車を降りると雨雲で薄暗くなった工場跡に貼られたテープを乗り越えた。
「心の中にすべての事実を刻む」その覚悟があった。なぜみどりが死ななければならなかったのか?その理由が知りたかった。
重苦しい空気が辺りを包む。胸が締め付けられそうになる。今まで感じたことの無い感覚が身体を覆った。だがみのり自身はそれに驚いていない。「みどりが死んだ」その事実があるだけで淀んだ空気などは気にもならなかった。
いくつかあるドラム缶の内、一つだけ広い場所に置かれたドラム缶。それがみどりの身体を焼いた場所であることはすぐにわかった。何故だか判らなかった。だがそこに近付けば近付くほど空気は重くなっていく。
「うぅっ…」
みのりは軽い呻き声を漏らした。
ドラム缶には黒く人の形らしきものが残っていた。それはそこにみどりの焼け焦げた死体があったことを物語っている。
(どうすればこんな残酷なことが出来るの?)
みのりの心奥深くから怒りが込み上げてくる。
高校時代、理由もわからず苛められ続けて、そんなときに抱いた怒り。それとは比べ物に成らないほどの強い怒り、悲しみ、殺意。自分自身が傷付けられるより大切に思う人が傷付けられるほうがずっと重かった。
(みどりさん、辛かったでしょう…もう苦しまないで。犯人はきっと見つかる。払うべき代償を払わせられるはずだよ)
重苦しい空気がみのりに覆い被さる、それに返答するようにみのりは心に強く念じた。その時心の奥深くで奇妙な感覚が湧き上がった。
生まれて初めて感じる感覚。
今までの世界から別の何かを感じ取る。そうにも思える。視覚・聴覚・嗅覚、それらどれでもなく、全く別の感覚。みのりは吸い込まれるようにドラム缶の焦げ付いた部分に手を伸ばす。
頭の中に映像が飛び込んでくる。
「うっ!」
みのりは頭を押さえて唸った。
だが伸ばし始めた手は緩めずゆっくりとドラム缶に触れる。