7 霧雨の炎 3

人は事実を頭の中で作り出すという。
見えたものが事実ではなく、頭で認識して初めて事実となる。それが認識を否定したくなるような酷い事実であっても、ゆっくりと事実が染み込んでくる。
時間は待たなかった。
気が付けばみのりは木村みどりの葬式に参列していた。遺影や棺、すすり泣くみどりの両親の声。それらが頭の中に無理矢理流れ込んでくる。
(みどりさんは死んだ)
その事実は否定されながらも確実に形付いてきた。そして認識された事実が涙を流した。みのりの頬を拭い切れない程の涙が流れた。
(『みのり姉さんのようになりたい』『好きな人ができたの』『将来の夢は…』)
みどりの声を思い出していた。
よく将来の夢を語っていた。正直でごく普通の高校生。その将来を暗雲に覆わせる権利が誰にあるのだろうか。みのりの悲しみは怒りに変わった。
雨は止まなかった。小雨が降り注ぐ音が葬式のお経に混じる。
(そのまま、そのまま…小雨が降り続ければいい。それが悲しみの涙から降る雨なんだから)
晴れ渡る空は今日ならどんな理由があっても理不尽に感じる。