6 サッカーボール 4

病院の休憩室に顔や身体にガーゼや湿布を貼ったみのりと守山がいた。
普段はあまり姿を現さない店長も今日ばかりは直ぐに駆けつけていた。警察官と何か離す店長が廊下の奥にいる。
「酷い目にあったね…」
守山が口を開く。
みのりは守山をちらと目つめた。
「さっきはありがとう…助けようとしてくれて」
「え、あ、いや…」
守山はみのりの顔を見つめた。
「私の顔の傷、酷い?」
殴られた直後のみのりの顔は赤く腫れていたが、直ぐに腫れがなくなり、深そうに見えた眼鏡のレンズによる切り傷も殆ど意識されないぐらいに浅い傷だった。
「え、いや…菅原さんの眼鏡とったとこ、みたことなかったんで。その…凄く可愛いんだね」
「え?」
「あ、眼鏡つけてても可愛いけど、眼鏡外しても可愛いなって…ごめん」
みのりは何を話していいかわからなくなり、黙り込んだ。
警察官と店長は2人でみのりと守山の前まで来る。
「巡回指定店にしてもらうことにしたよ。さすがに2度目だからねぇ」
恐らく店長の言う1度目というのは酒を飲んで暴れた客がいた話だろうか。店長は帽子を脱いで頭を掻き毟りながら警察官に頭を下げる。
「よろしくお願いしますね」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。
あの不良どもは今度見かけたら無条件で補導しますよ」
巡回指定店は巡回料を払うことで警察やセキュリティ会社が店を定期的に巡回するサービスだ。警察官が店の中にまで入るので、店にとっては治安が上がる一方で客足が減るというリスクを背負う。だが今回のようなけが人がでるトラブルが続いたので、既に店長は決めていたのだ。
「新山商店街のほうじゃ、殆どの店が巡回指定店にしてるから、あいつら不良どもは高寺のほうまで来たんでしょう」
警察と一緒に来ていたセキュリティ会社の社員らしき男が言う。
「困ったもんだな…ほんとに」
警察官はポケットからタバコを一本取り出してそれに火をつけ、セキュリティ会社社員と一緒に暗い病院の廊下を歩いて去っていった。
店長と病院の玄関に来ると店長が2人に話し掛けた。
「ふたりとも今日は帰って良いよ。俺が送ってくから」
みのりと守山の2人は黙って頷くと店長の車に乗った。