6 サッカーボール 3

「お、おい!止めろ!」
その声は守山の声だった。
怒りとも恐怖とも取れる表情をした守山は不良の1人を突き飛ばしてみのりの腕を取り、囲まれている中から救う。
「なにすんだ!コラ!」
突き飛ばされた不良が起き上がって守山の腕を掴む。そのまま膝蹴りを守山のみぞおちに入れる。腹を抱えてうずくまる守山。
「ウゼェんだよクズ!」
他の不良達も合わせて守山に蹴りを入れた。顔、腰、足、それらを蹴るたびに守山のうめきが聞こえる。
「止めてください!」
みのりは不良の1人の腕を掴むが、直ぐに振り解かれ突き飛ばされた。不良達に囲まれて殴られ、蹴られる守山の姿がみのりの記憶から暗い高校時代を呼び起こす。
…クラスメートは誰一人として助けてくれなかった。
みのりこと「吉村秀人」は必死で謝っていた。
笑い転げる不良達。
サディスト的な笑みを浮かべながら無心に秀人を蹴りまくる不良。
文字通りの滅多蹴りだった。
「ハハハッ!こいつ今日からサッカーボールって呼ぼうぜ!」
秀人という名のデブはその日から別のあだ名もついた。
(自分はあいつらとは違う。傍観なんてしない)
心の深い所、僅かな正義感が導火線となって一気に爆発するような感覚を覚えた。みのりは震える手を動かす。その震えは恐怖とは異なるものだった。近くにあった木箱を持つと不良に後から殴りかかった。ガッっという音と共に木箱は粉々になった。
「ってぇぇ!何すんだこのアマ!」
不良はみのりの襟を掴むと顔を拳で殴った。1回、2回。眼鏡が割れた。割れた眼鏡のレンズがみのりの頬を切った。
「おい!サツだ。ずらかるぞ!」
リーダー格の男がそう叫ぶと、不良達は散り散りになって逃げた。遅すぎる警察の到着だった。みのりは身体を引きずりながら守山に近付いた。
「ぅぅ…うっ」
守山はうめき声を上げていたが意識はあるようだった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫…」
浮浪者とみのり、守山の4人はそのまま警察の車両で病院まで運ばれた。