7 霧雨の炎 1

マシンガンのように叩きつける雨音で目を覚ました。
朝の6時。
普段なら鳥の囀りや出勤する人々の車のエンジンを鳴らす音が朝を知らせる。恐らくその朝も同じ音があるのだろう。それを掻き消すような雨の音。
みのりはカーテンを開けると普段よりも少し暗い朝の景色を眺める。突然その雨音は止み静かになる。地の埃を舞い上げたように視界の悪い朝が訪れた。深い霧の中で小雨の降る音が聞こえる。
静けさが戻ると今まで聞こえていなかった音が聞こえ始めた。
アパートの廊下、みどり一家の部屋から声が聞こえる。男性の声に混じって女性の声。それも泣き声だった。そっとドアに近づき耳を澄ませ廊下の声を聞くみのり。
「でも検査で一致するんでしょう?」
その声はみどりの母親の声だった。よく知った声が泣いている。
「まだ娘さんと決まったわけではありません。こういったケースでは間違いもあります。所持品も残っていますので確認お願いできますか?」
胸騒ぎを覚えた。
心臓が鼓動を高鳴らせ同時に気分が悪くなる。
(みどりさんに何かあったの?)
心の表面からそんな思考が湧き上がった。だが奥深い部分から避けたくなるような本音が湧き上がる。
(みどりさんが死んだ)
しばらくして廊下を数人の人間が歩く音が聞こえる。音は階段を下りる音へ変わり、そして最後に車のドアが閉まる音になった。