5 ロボットオタク 3

世界中にドロイド兵器の恐怖を伝えた芝川をよそに、本人は決して自らの開発したデーモンに満足していなかった。
彼が本当に造りたかったのは意思を持ったドロイドではなくモビルスーツと呼ばれる搭乗可能な人型ロボット兵器だった。彼が幼い頃に見たテレビアニメのイメージが大人に成長した今でも心の奥底に生き続けていた。
「闘いの中にロマンを求めたい」
彼の理念から見ればデーモンを含めたドロイド兵器は最低作品だった。戦争が終わると自ら戦闘ドロイド製作部門の責任者の座を降り、今では家庭用ドロイドの開発者の一人として隠居生活をしている。
そしてその日も学生時代と同じように湖小山市の電脳街に居た。
小さな喫茶店のドアを開くと先ほど購入したドロイドの部品が詰まったバッグを担いだ背中から手に持ち替えカウンターの奥の椅子に腰掛ける。バッグの口を開くと部品の一つ一つカウンターに並べる。真剣な顔で部品を確認する芝川の背後から声が聞こえてくる。
最初こそ意識はしないものの次第にその声に耳を傾けてしまう。その声の主に気付かれないよう視線が合わない角度で首を向けると、芝川が想像した通りの声の主がそこにいた。
一人は髪を肩まで伸ばし前髪で表情が見えない男。ポマードがかかったような髪は、昆虫に例えるならカブトムシのツヤのある甲羅だ。芝川はカブトムシの匂いまでは嗅いだことはないが、その髪から同じような匂いが嗅げそうだと想像した。そしてもう一人は巨体。デブで無精髭を生やした男で長髪の男と同様、表情は見えない。分厚いメガネが彼の顔から表情を奪っていた。とても似合うとは居えないバンダナを頭に巻いている。
その二人の会話が芝川を振り向かせるのだ。