5 ロボットオタク 4

二人の男は机一杯にアニメのパンフレットを広げ、これがいい・あれがいいと吟味している。とても年齢相応の行動には思えないが電脳街では珍しくは無い風景だ。デブの男は体格に似合わない高音域の声で恐らくアニメのキャラ(女)の声真似をする。
芝川にはそれがたまらなく面白いのだ。「怖いもの見たさ」というのが人間にはあるがその高音域の声はそれに類似する。
何とか気付かれないように二人の話を聞くと「魔法少女ミミ」という言葉が行き交っている。彼ら二人の間ではそれは伝説であって、現実ではないらしく、彼らはその「過去のアニメ」から派生した別流派と伝説について論議しているらしい。
「『魔法少女ミミ』か懐かしいな…」
芝川もアニメオタクを完全に否定できる立場では無い。
大学時代には現代美術研究会に所属していた彼は、ロボット系の現代美術(=アニメ)に没頭していた時期もあった。その時に魔法少女ミミというアニメに出会っている。
「ミミと言えば、吉村秀人君かな」
芝川と吉村の出会いはその現代美術研究会だった。
最初に吉村と出会ったときの印象は「変な奴」。彼が引き篭もりという現象を詳しく知るなら、吉村がその典型的なパターンだと判断できただろう。芝川は何度か話かける、無視こそされないが吉村の「声」を聞くことはそう簡単な事ではなかった。
ゆっくりと時間をかけて芝川と吉村の関係は二人の間の分厚い壁を壊していった。二人の共通の趣味「アニメ」を通して。
「吉村、今どうしてるだろうな…」
芝川の視線はバンダナをした無精髭デブに向けられた。
丁度そのイメージが吉村にダブる。