8 魔法少女ミミ 7

芝川がみのりの部屋に来たのはそれが初めてだ。そして第一声。
「思ってたより、意外と奇麗な部屋なんだな」
芝川にもみのりにも馴染み深いリュックを肩から下ろすと、みのりに案内されるまま部屋の奥へと足を運ぶ。部屋をぐるりと見渡し、その視線は一点で止まり、その一点に向かい歩み寄る。
「懐かしいなぁ。魔法少女ミミか。まだ読んでたのか?」
1冊の同人誌を片手にみのりに言う。
「色々力を与えてくれたからね…」
みのりにとっては参考書のようなものだった。フォームを知り、正義を知り、何より勇気を知った。全ての結果が自分自身に刻まれていた事を今では恥らわず誇りに思えた。
芝川はリュックを下ろすと中に詰まったものを一つ一つ丁寧に床に並べ始める。一つはみのりが既に想像に描いていた武器。
「これがドロイドのアームブレードを元に作成した武器、名前は決まってないけど、単純にレーザーブレードでいいか。分厚い鉄板でも豆腐に包丁入れるみたいにサクサク切る。相手が人間だったら鋸で切ったように雑な切り口になる。熱で溶かすからね。これ自体がバリアの役割もあるから、強い衝撃を与えても折れることはない」
芝川の話を聞く間もみのりはその2本のブレードに魅入っていた。ブレードといわれても、電源を入れない間は刃を手で触れても切れるほど鋭利でもない。みのりが練習していた時と同様に、掌と腕に絡むように回転させると、また掌に収める。
「凄いね、練習したの?」
「うん」
「それから…これは、新兵器だ」
芝川の言う新兵器は時計の形をしていた。その時計から突起が出ており、それを引っ張るとワイヤーが現れた。真っ赤に輝くワイヤーが熱を発し部屋が暖かくなる。
「これは…これもアームブレード?」
「ワイヤーブレードって呼んでる。扱いは難しいかも。分厚い鉄板は切れないけど、薄い鉄板とか人間相手なら十分」
その時計のようなものを装着するみのり。
芝川はそれを横目に次の説明を始めた。
「これは唯一の飛び道具だよ。投げて使うんだけどね」
手に持っていたのは液体の入ったカプセルだ。
「手投げ弾。ただし爆薬は入っていない。硫酸とそれをばらまく仕掛けがしてある。スイッチを入れて5秒で二つの液体が混ざって破裂する」
説明する芝川の瞳も活き活きとしている。何より自分自身の兵器を説明する瞬間を楽しんでいるようだ。みのりの目的に当人は気持ちに少しの躊躇いは感じながらも、本能に従うように武器を作った。
人を殺すための兵器を作ってきた芝川だが、その兵器は悪者に定義される人間を苦しめるために使われるなら、本来の役割が見ていて快楽にさえ思えるほどに発揮されるだろうと芝川は思う。
「そしてこれは戦闘スーツ。動きを最優先させたよ。相手は人間であって、ドロイドじゃないからね。そしてこのスーツは…」
スーツの腰の部分の突起を、同様に腰の部分にあるソケットに差し込むとスーツはゆっくりと透明になり、消えた。
「ステルス機能付き」
みのりはそのスーツに触れた。
手が近付くとその手さえもステルス機能で消えた。
「凄い…」
「あぁ、柏田重工きっての最新鋭のスーツだよ日朝戦争後半で登場している「透明な悪魔」ってのが元ネタ」
のりを見つめ芝川が言う。
「吉村、このスーツは大して防御力は無いんだ。爆風でも吹き飛ばされるし、銃弾だって貫通しないまでもダメージ無しじゃない。もし…警察と殺り合うことになったら、逃げろ。いいな?」
みのりはスーツの感触を味わうように手で撫で、深く頷いた。