8 魔法少女ミミ 2

芝川はなんどかドラム缶に触るが首を傾げるだけだった。
「君だけの能力なんだろう」
みのりはゆっくりとドラム缶を撫でるように触れる。前とは違い、強制的に記憶が脳には送られなかった。
みのりの頬を涙が伝う。
「今まで何にも出来なかった…でも今はどんなことだって出来る気がする。自分が死んでもいいから、みどりさんの痛みをあいつらに味あわせたい」
「俺に…殺人に協力しろっていうのか…友達が殺人をするのを黙って見ていろっていうのか」
芝川は溜息をついた。
「警察には武器は私が奪っていったって言えばいい」
「そういう問題じゃない…」
「武器が無くてもやるよ…どんなものを使っても人は殺せる」
みのりは泣きながら小さな声で答えた。
芝川は空き缶を見つけるとそれを蹴った。安っぽい音が工場跡のフロアに響き渡る。
「殺人がどうのこうの、言える立場じゃないんだよな。俺は…」
「え?」
「吉村…対人用の銃火器は部品を手に入れるのも困難なんだ。接近戦武器になるけど、それを使っても女のお前が男に向かっていって無傷で済む話じゃないんだぞ。どうしても警察には任せきれないのか?」
「正義が何なのか知りたいの」
芝川は何年かぶりにその言葉を聞いた。
「正義」という言葉。
最後に聞いたのは幼い頃のテレビアニメの中だっただろう。
モビルスーツに乗った主人公が敵と対峙している時、「お前が俺と同じ様に暴力で解決しようとするのなら、お前がやっている事は俺となんら変わりはない。そこに正義があるのか?」と敵に問われるのだ。主人公はまだ子供だった。だからそこに明確な答えを見出せなくて、その迷いは戦闘から気を逸らさせてしまい、一般市民が敵のモビルスーツに殺されてしまうという結果を招く。
そしてそれを見た主人公は決断する。
「…戦いの中に正義なんてねぇ…。俺は俺が大切だと思っている人達を守るために、今ここで戦う。例えそれが悪だと思われてもいい。綺麗事じゃ人は守れねぇんだ!」
芝川は前を向いて、みのりをじっと見つめて言った。
「協力するよ」
「え…?」
「俺も…正義が何なのか知りたい」