9 報復者 4

ふと、大男が行為を止めた。
その視線は廃屋に敷かれている古びた絨毯に向けられる。それはベッドなどと一緒に男達が運び込んだものだ。
「どうした?」
カメラマン役の男は大男に尋ねる。
大男は目前の絨毯の一か所を指差しながら言う。
「足跡が…」
「はぁ?」
カメラマン役の男はカメラを止めてからその足跡の個所を見つめる。それは足跡だった。だがその足跡は微かにだが動いている。その足跡の「持ち主」がそこを離れず、まだ足跡の上に立っているかのように。
「なんかいる!」
大男が叫んだ。
カメラマン役の男は震える手をその足跡の上に伸ばした。
「うわっ!」
男は慌てて手を離した。その手にはプラスチック質の感触が残った。足跡を触ろうとしたのに足跡まで手が届かない。何か透明なモノが足跡の上にあるのだ。
「その汚らしい手を離しなさい」
その場にいた一同はその声、その女の声の主を探した。
最初の疑いは少女にかけられ、視線が向けられるが、少女も周りを見渡しながら声の主を探している。だが明らかに少女の居る辺りから声が発せられているのだ。
「ここだ!ここになんかいる!」
カメラマン役の男は叫んで指刺す。
指差す先は大男とカメラマン役の男の間。
部屋はシンと静まり、男達と少女はその指差された空間を見つめる。
「その手をどけろって言ってるの。ウスノロ
「ヒッ!」
大男は太い腕に更に力を込め恐怖に耐えている。子供が暗闇を恐れるように人形を離さず、抱きかかえたままになるような滑稽な様子をカメラマン役の男は撮っていた。